2022年6月までに内部通報体制の整備を義務化
改正公益通報者保護法の解説

毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
2021/11/08
ニューノーマル時代の労務管理のポイント
毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
「リコール隠し」、「事故の隠蔽」、「食品偽装」などの企業不祥事は、内部の労働者や取引先などからの通報で明らかになることが少なくありません。「公益通報者保護法」は、公益のために通報を行った労働者等が企業から解雇されたり、降格、減給、左遷などの不利益な取り扱いを受けることのないよう保護することにより、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の遵守を図ることを目的として、平成16年6月に公布(平成18年4月施行)されました。しかし、同法に基づく公益通報者保護制度が整備されてからも企業不祥事は後を絶たず、社会問題ともなっています。かかる状況を踏まえ、公益通報を行いやすい環境を整え、公益通報者保護制度の実効性を確保するため、令和2年6月に公益通報者保護法が改正されました。改正法は令和4年6月までに施行される予定です。そこで、今回は、公益通報者保護法の改正のポイントと企業に求められる対応について解説します。
現行の公益通報者保護制度下においては、内部通報窓口に通報した社員に関する情報が漏れたことで通報した社員が退職を強要されたり、降格や左遷などの不利益を被るケースが散見され、中には内部通報した社員が上司に脅迫されて刑事事件にまで発展した事例もあります。そのため、改正法では、公益通報者保護制度の実効性を強化するため、内部通報に適切に対応するために必要な社内体制の整備を事業者に義務づけるとともに、保護される通報者の範囲等を拡大しています。
(1) 事業者の義務となった内部通報体制の整備
労働者(パートタイマーを含む)301人以上を雇用する全ての事業者について、内部通報に適切に対応するために、内部通報受付窓口の設置、内部通報に対する必要な調査の実施、調査により法律違反が明らかになった場合の是正措置等の体制を整備することが義務となりました(労働者数300以下の中小事業者については努力義務)。
また、体制整備の実効性を確保するため、消費者庁が事業者に対して報告徴収を実施し、助言・指導、勧告を行い、勧告に従わない場合には、企業名を公表することができるようになりました。
さらに、内部調査等に従事する者に守秘義務が課され、違反した場合には刑事罰(30万円以下の罰金)が課されます。
(2) 保護要件の緩和
行政機関等への通報の保護要件について、現行法では「通報対象事実が生じ、又は生じようとしていると信じるに足りる相当な理由がある場合」とし、「真実相当性」が求められています。この点に関して、改正法では、「氏名等を記載した書面を提出する場合の通報」が追加され、この方法による場合は、真実相当性を求められることなく通報することが可能となります。
また、報道機関等への通報の保護要件について、現行法で定める「生命・身体に関する危害」に加えて、「財産に対する損害(回復困難又は重大なもの)」及び「通報者を特定させる情報が漏れる可能性が高い場合」が追加され、これまでよりも報道機関等への通報が行いやすくなります。
(3) 通報者保護の拡大・強化
① 保護対象者の拡大
公益通報者保護法により保護される対象者について、現行法で定める労働者に加えて、退職者(退職後1年以内の者)や役員も保護対象になります。
② 保護対象となる通報の拡大
刑事罰の対象となる通報に加え、行政罰(過料)の対象となる通報も保護対象となります。
③ 保護内容の強化
通報者の損害賠償責任の免除が新たに定められました。
ニューノーマル時代の労務管理のポイントの他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方