2021/11/09
東京2020大会の遺産

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の閉会から2カ月。世界的イベントは我々に何を残したのか――。東京都はオリンピック・パラリンピックのレガシーの一つに、大会を通じて培った感染症対策や危機管理の経験が今後の安全・安心な暮らしに生かされることをあげている。波乱を乗り越えた経験をプラスに転化し、リスク管理・危機管理の強化にどうつなげていくか。これについての考察は別稿に譲り、ここでは今後のスポーツ振興に与えた影響に触れてみたい。そこには、企業のガバナンス・コンプライアンスにも通じるものがあると考えるからだ。独立行政法人日本スポーツ振興センターに取材した。
スポーツ・インテグリティが注目される背景
「現代スポーツと市民との関わり方には、大きく『する』『みる』『ささえる』の3つがある。もしスポーツが公平・公正でなく安全でもないとしたら、そもそも誰もやらない、見ない、応援もしない」(日本スポーツ振興センタースポーツ・インテグリティ・ユニットインテグリティ推進課)
日本スポーツ振興センターでは、スポーツが公平・公正かつ安全で、価値が保たれている状態を「スポーツ・インテグリティ」が確保された状態と考えている。この言葉はスポーツが本来持っている誠実性・健全性・高潔性を指すものでもあるが、残念ながら自然状態での保持は難しい。特に近年は、スポーツ・インテグリティを守るためにさまざまな取り組みが実施されている。
スポーツ・インテグリティという言葉が注目され始めたのは2010年前後、IOCなどの国際スポーツ団体が違法賭博や八百長を問題視したのがきっかけだ。その後、スポーツ先進国といわれるオーストラリアなどが率先してこの考え方を政策に取り入れ、スポーツをめぐる不正の排除を推進。こうした動きから、スポーツの価値を損なう脅威に対抗する活動が世界に広がった。

現在、スポーツ・インテグリティの脅威は違法賭博や八百長に限らず、ドーピング、暴力・ハラスメント、危険・反則行為、人種差別、スポーツ団体のガバナンス欠如やコンプライアンス違反など多岐にわたる。これらをなくす努力をしなければ『する』『みる』『ささえる』の観点においてスポーツは成り立たないともいわれるようになった。
こうした背景のもと、日本スポーツ振興センター(東京都、芦立訓理事長)はスポーツ基本法・基本計画を踏まえ2014年からスポーツ・インテグリティを守る活動を展開。ただ、同センターによると前述の脅威は近年発生したものではない。「スポーツ界の長年の課題。それがガバナンス・コンプライアンスに対する社会の意識の高まりとともに、あらためて注目されている」(同スポーツ・インテグリティ・ユニットインテグリティ推進課)
SNSの影響もある。個人が容易に情報発信できるようになり、これまで密室の中で行われていた事象が表に出やすくなった。スポーツ団体の暴力・ハラスメント問題やコンプライアンス違反が発覚すると世間の反応は厳しく、選手や競技への影響も大きい。「そうした出来事が重なり、関係者の危機意識がより強まっている」(同)という。
スポーツ・インテグリティ確保への取り組み
とはいえスポーツ・インテグリティ――誠実性・健全性・高潔性というのは幅広い概念だ。TPOによっても評価は変わる。指導上の暴力・ハラスメントの問題などは特に線引きが難しく、ゆえにインテグリティはスポーツを取り巻く時代の価値観、社会の姿と切り離せない。

「結果を出すため厳しい練習を行うこと自体は尊い行為だが、過去の事例からも、閉鎖的な空間ではおうおうにして暴力・ハラスメントが入り込んでしまう傾向にある。よく勝利至上主義といわれるが、勝つためには何をやってもいいという考え方が問題。スポーツにはルールがあり、必ず人間が行う。選手個人が尊重されたうえでの指導、競技力の向上が欠かせない」(同)

同センターは主にトップアスリートを対象としたドーピングの防止活動、暴力・ハラスメントの相談・調査活動に加え、スポーツ団体のガバナンス・コンプライアンスを高めるための支援活動も行っている。閉鎖的になりがちなスポーツ団体の運営を組織体制から見直し、公平性・公正性、安全性の確保につなげるもの。「スポーツ団体ガバナンスコード」の普及・啓発がそれだ。
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