今回紹介させていただくのは、英国のRoyal Academy of Engineering(王立工学アカデミー)が2021年5月に発表したもので、緊急事態に対するレジリエンスの強化にエンジニア的な視点(engineering perspective)を採り入れるというアプローチを、英国政府に対して提言するというユニークなものである。報告書は下記URLから無償でダウンロードできる。
https://www.raeng.org.uk/publications/reports/critical-capabilities
(PDF 64ページ/約10.8MB)
本報告書は、次の4つの事例を研究した結果を踏まえてまとめられたものである。
(1)エイヤフィヤトラヨークトル(Eyjafjallajökull)での火山噴火(2010年)
(2)福島第一原発事故に対する英国の対応(2011年)
(3)英国ランカスター(Lancaster)における洪水に伴う停電(2015年)
(4)NHS(英国国民保険サービス)におけるランサムウェア「WannaCry」による被害(2017年)
(1)は2010年4月にアイスランドで発生した火山噴火による火山灰の影響で、欧州における航空便の大部分が数日間にわたって運行停止となった事例である。(2)については説明不要であろう。(3)は2015年12月に発生した大雨によって、発電所で浸水被害が発生したことにより、一週間近くにわたって街全体が停電した事例である。(4)は2017年にランサムウェア「WannaCry」が世界中に拡散したときに、NHSのパソコンがこれに感染した結果、数万件の診療をキャンセルせざるを得なくなるなどといった大規模な被害が発生した事例である。
本稿のトップに掲載した図は、本報告書において示されている、緊急事態に対応するために必須の能力(critical capabilities)であり、レジリエンスを支える能力が次の6種類に分けて考えられている。
・Resources:データや資金などを含むさまざまな資源
・Skills and labour:事態に対応する戦力と、それを維持する教育訓練
・Research and innovation:事態に対応するための専門知識を提供する研究機関や研究者
・Industrial capability:事態を分析し、解決策を提供する民間企業の対応能力
・National assets:社会インフラやヘルスケア、セキュリティーなどを実現するための公的資産
・Networks and coordination capabilities:多様な当事者やステークホルダーの間でのネットワークおよび調整能力
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