前回、"同じ地域”と一言で言っても、そこにはさまざまな事情を持った人々が住んでいる、というお話をしました。少し前の調査ですが、2011年8月末~9月頭に紀伊半島を襲った台風12号(死者82名、行方不明者16名、負傷者113名)の被災住民を対象としたアンケート(※)では、台風接近にもかかわらず「逃げなかった」理由として、「家屋の周囲に警戒区域があることを知っているが、これまで災害が起きたことがなく、安全だと思っていた」「周囲の状況にこだわらず、土砂災害など起きないと思っていた」との回答が合わせて6割に迫っており(有効回答406名)、非常時であっても「自分は大丈夫だろう」という正常性バイアスが強い影響を与えることが浮き彫りになりました。「逃げられなかった」理由としては、「自身が高齢者で、他者の援助がいる」「家族に高齢者(要介護者)がいる」などが挙げられており、自分の身体能力や家族の支援など、各個人や家庭に固有の状況が影響していることが分かりました。

このような各人や世帯の事情は、ハザードマップには現れません。ハザードマップで可視化されるのは、洪水・津波・土砂災害などのリスクです。そして、隣り合った住宅であっても、リスクは異なります(図)。図内の斜線は土砂災害警戒区域。濃い色のエリアは想定浸水エリアです。

出典:藤沢市土砂災害・洪水ハザードマップ(http://guru-fmap.city.fujisawa.kanagawa.jp/map/map/?mid=59&cid=1&gid=1)から作成