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英国の雑誌『The Economist』の調査部門であるEconomist Intelligence Unitが、サプライチェーン・マネジメント協会(Association for Supply Chain Management)(注1)からの委託を受けて実施した調査結果を、「The Resilient Supply Chain Benchmark」という報告書にまとめて2021年2月に発表した。

この報告書は、2020年10月に米国の上場企業の中から308社を対象として行われたサプライチェーンのレジリエンスに関するベンチマーキングの結果と、各社から公開されている情報、およびさまざまな分野のエキスパートへのインタビューとを組み合わせてまとめられており、下記URLにアクセスして、ページの下の方で氏名やメールアドレスなどを登録すれば、無償でダウンロードできる。
https://www.ascm.org/eiu-benchmark
(PDF 18ページ/約1.4MB)

この報告書の大きな特徴の1つは、サプライチェーンのレジリエンスを次の2つに大きく分けて、企業のサプライチェーンがそれぞれの観点から評価されている点である。

・Operational supply chain resilience
サプライチェーンが元の平常状態(normal state)に戻るための能力

・Strategic supply chain resilience
サプライチェーンが新しい平常状態(new normal)に適応して前向きに変化していく(bounce forward)ための能力

原文では、元の状態に戻ることがbounce back、前向きに変化していくことがbounce forwardと表現されている。このようなbounce back/bounce forwardという対比は、英語圏におけるレジリエンスに関する文献で度々用いられている。

一般に「レジリエンス」とは、ゴムのボールを押して凹んだ部分が元に戻るように、何らかの外力の影響を受けた後に元に戻っていく復元力を指す言葉であり、このような意味を説明する時にbounce backという表現がよく用いられる。これに対して、特に大規模災害などに対するレジリエンスに関する議論では、元の状態に戻るだけでなく、災害などによる環境変化に適応して、より良い状態に向かっていくことを含めるべきではないかという考え方が、2000年代から目立つようになってきた(注2)。

具体的な例としては、2016年に国際赤十字・赤新月社連盟が発表した報告書「World Disasters Report 2016」(注3)でも、bounce forwardという概念が詳しく紹介されている。なお国連関連の文書では同じく2000年代から、災害からの復旧・復興に関して、bounce forwardとともにbuild back betterという表現が多用されるようになってきているが、これも同様の意味と捉えてよいであろう。

以上のような認識のもとに、bounce backあるいはbuild back betterを実現するための能力が、「Strategic supply chain resilience」と定義されている。恐らくbounce backを実現するためには、どのような方向に向かっていくべきか、経営層のようなレベルでの戦略的(strategic)な意思決定が必要になるために、このような表現が用いられているのであろう。これに対して、元の状態に戻るためにはそのような意思決定が必要なく、実務的な復旧作業が中心になるため、こちらにはoperationalという表現が用いられていると思われる。