ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
「ヘリ墜落時のレスキューマニュアル」の必要性
長野県消防防災ヘリの墜落事故を考える
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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今年、3月5日の日曜日、長野県消防防災ヘリコプター「アルプス」が長野県鉢伏山付近をフライト訓練中に墜落し、操縦士1名、整備士1名、消防隊員7名の方が犠牲となりました。亡くなられた9名の皆様に心から哀悼の意を表します。
■長野県消防防災ヘリの墜落事故(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h29/bousaiheri_anzen_jyujitu/01/shiryo2~5.pdf
メディア報道などで墜落後の画像の数々を見ていると、立木に接触して墜落したと思われる痕跡のものが多いが、一瞬のうちに操縦不能になり、木々に機体を打ち付けながら、最終的にメインローター側から墜落していることが分かる。
後部シートを外した状態の機内で床に膝をついた状態で待機していた隊員達の体は命綱のみで、確実に身体が固定できておらず、墜落時の激しい衝撃により、ヘリ内の天井と床に何度も全身を叩きつけられたり、お互いがぶつかり合ったりして、複雑な墜落外傷を受けたと思われる。
NASAによるヘリ墜落時の受傷テスト(「Helicopter Drop Test」 出典:Youtube)
海外の様々なヘリコプター事故の報告書や文献で、墜落時にどのような外傷を受けたかを調べて見たところ、下記のようなものが多かった。
ヘリの隊員が墜落時に受ける外傷
外傷性ショック
脳挫傷
多発外傷による出血性ショック
低体温症
クラッシュ症候群
コンパートメント症候群
消防関係ヘリなど、機内後部座席を外したシートベルトがない状態で、上記の外傷を最低限に防ぐには、まず体を上下に打ちつけられないよう、各隊員のハーネスの装着法と固定法(例えば命綱をシートベルト状にして必要なときには長くなり、不必要なときには短くなるなど、特殊な機内活動環境下で、最大限に隊員達の身を守る工夫)が必要である。
また可能であれば、機体内部の後部壁に直接シートベルトをつけて、活動しない隊員はすべて体を固定する方法も良いかもしれない。
さらに墜落後、失神(一過性の意識消失全般)してしまっては、ヘリが炎上した際に脱出できず焼死してしまう。そのため機長席と副操縦士席はもちろん、機内後部の4面すべてにエアバッグなどの設置をすることで、まずは意識消失の予防が必要と感じる。
■Airbag Performance in General Aviation Restraint Systems(P25)
(米国国家運輸安全委員会)
https://www.ntsb.gov/safety/safety-studies/Documents/SS1101.pdf
できるかできないかは、さまざまなヘリコプターの安全基準や審査を受け、パスしなければならないと思うが、下記資料にあるような、様々な角度から墜落した時に発生する外傷から身を守る具体的な対策が早急に必要だと思う。
■Human Tolerance and Crash Survivability(Dennis F. Shanahan, M.D., M.P.H. )
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.212.5449&rep=rep1&type=pdf
下記の資料は、緊急時にパイロットがどのように判断すべきかが書かれた資料だが、ここに紹介されている判断手法は、他の消防活動にも十分に生かせる内容である。
■Effective Aeronautical Decision-Making(米国連邦航空局)
https://www.faa.gov/regulations_policies/handbooks_manuals/aviation/helicopter_flying_handbook/media/hfh_ch14.pdf
また、水面と地面との墜落によっても機内での身を守る体制や方法が異なるが、下記のような具体的なワークシートを用いて、搭乗する可能性がある隊員すべてに緊急時の対応についてグループワークショップと衝撃予防・脱出・避難訓練などを行うべきだと思う。
■Basic Survival Skills(米国連邦航空局)
https://www.faa.gov/pilots/training/airman_education/media/CAMISurvivalManual.pdf
下記の資料はサーチ・アンド・レスキュー用ヘリコプターについての基本運用に関するすべてが記載されており、こられの救助・救急テクニックを用いて、墜落外傷の救命処置に必要な医療物品の数と種類の選定、さまざまな環境下を想定し、墜落したヘリ隊員の救出訓練を行うことができる。
■WORKING WITH SEARCH & RESCUE HELICOPTERS(P23)
(英国王立空軍)
https://www.raf.mod.uk/rafsearchandrescue/rafcms/mediafiles/786C1D69_5056_A318_A8A97B2C43CB3E85.pdf
下記の原理を参考に、シートを外した状態で墜落時に隊員達を守るエアバッグなどの機器を開発することはできないだろうか?
■航空機用エアバッグ、エアバッグ装置及び航空機 (Google特許検索)
https://www.google.com/patents/WO2011074350A1?cl=ja
次の事故による殉職者を出さないようにするためには、今までに起こった事故原因の洗い出しと搭乗隊員の身体確保設備の実装の改善、既存のルールや装備、仕組みなどを具体的に見直しを行わなければ、また、悲惨な結果を繰り返してしまう。
今、消防ヘリの隊員の方々や応援で乗る隊員の方々は、今回の記事のようなことを考えていたら、怖くなってしまう人もいるかもしれない。しかし今回紹介した海外の資料にもあるように、物理的・生理的に原因・改善・ゴールを設定して、「ヘリ墜落時のレスキューマニュアル」として、搭乗隊員用、救助に向かう隊員用に作成する必要もあると思う。
(了)
一般社団法人 日本防災教育訓練センター
http://irescue.jp
info@irescue.jp
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