2020/08/12
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
避難確保計画は適切だったか
千寿園はどうだったのでしょうか。当初の報道では、避難確保計画があり、避難訓練も年2回実施していたとのことでした。
しかしその後、7月28日付け毎日新聞報道では、その訓練は「最大規模降雨を想定した洪水ハザードマップで実施されていなかった」とあります。
https://mainichi.jp/articles/20200728/k00/00m/040/230000c?
九州豪雨で入所者14人が犠牲になった熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」が策定していた避難計画が、最大規模の大雨が降った時の浸水想定ではなく、より小さな想定を考慮して作成されていたことが判明した。

最大規模想定ですと10〜20メートルの浸水想定です。園は鉄筋コンクリート造の一部 2階建で、実際には1階の天井まで水没しているので、最大規模想定の想定内の浸水です。

しかし残念なことに、実際に訓練で使われていた想定は、80年に一度の雨量の計画規模想定のハザードマップで、浸水予想は0.5メートルと報道されています。
浸水が0.5メートルと10メートルでは、避難行動も大きく異なります。なぜ最新の情報が反映されていなかったのでしょうか。上記報道では、
とあります。最大規模想定のハザードマップを認識しながら、考慮しない避難確保計画になぜなったのか、詳細は分かりません。法改正の理由からすれば、最大規模想定があれば当然それを前提に避難確保計画を作るべきなのですが、避難確保計画作成の64ページにもわたるマニュアルの中には、当たり前であるがゆえに、「両方あった場合、最大規模想定で作成する」という文章はわざわざ書かれていないため、誤解があったのかもしれません。でも、今回ここで検討したいのは、今後の教訓です。一般論として、これは千寿園だけの問題ではないと思っています。
全国の特養ホームは今、コロナ対応で多忙です。また、少子高齢化社会で、人手不足になりやすい職場でもあります。そんな中、いつ起こるか分からない災害対策が後回しになっているところもあるでしょう。実際に、避難確保計画を策定している対象施設は国土交通省によると 2020年1月の時点で45%でしかありません。過半数がまだ避難確保計画ができていない状況です。

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