2020/07/02
DX時代のデジタルリスク
信頼できる委託先とエコシステムを作り上げるには
前章では、委託先のレジリエンスの状況を常に可視化して把握しておくことで、パンデミック時にも行動が取りやすくなると述べました。これに加えて、委託先とのコミュニケーションを日常的に活性化させておくことも、委託先の状況や事情の把握、また長期的にはレジリエンスの可視化につながります。
これらの可視化が高まって、委託先の状況をより早く理解できれば、状況が悪化する前にコミュニケーションを取ることができ、委託先との信頼関係をより深めることができると考えられます。
では、このような可視化を具体的に実現するためには、どのようなことを実践しておくのが有益でしょうか。ここに5つ例を挙げます。
1. 顧客満足度 (顧客からのフィードバック)の確認
委託先は、委託元である企業のビジネスの一端を担っています。その委託先が関連するサービスに顧客が満足しているか測っておくことは、客観的指標として大変重要です。
2. 定期的な(ポイントをついた)質問
例えば、もし、委託先から24時間のサービスを受けているとしたら、どの程度の人数が、どのような体制でサービスを提供しているか把握しておくと、レジリエンスを担保できているかの判断材料になります。
3. サービスレベルの確認
委託先は、おそらくさまざまな企業からの委託を受けているでしょう。あまりにも多くの業務を請け負っていると、サービスレベルが満足できる水準を下回ってしまうことも予想されます。協議をすることで、どのような状況か把握することはできると思われますが、万が一の場合、多くの不利益を被ることなく、他のベンダへ移行できるように条件を見直しておくことも必要です。
4. パフォーマンス測定方法の決定
多くの企業がサービスレベル契約(SLA)を結ぶことになると思いますが、その委託先のパフォーマンスを測定する方法を明らかにしておくことと、定期的に報告をしてもらうことが重要です。
5. 監査(調査)結果の開示
ビジネスが、法令遵守に厳しい、あるいはガイドラインが重要視される業界に属するものである場合には、監査に関する情報を委託先から定期的に提出してもらうことも重要です。
信頼できる委託先と作り上げたエコシステムは強固なものです。それには、多くの情報を要求すること(逆に提供することも)が必要になります。信頼関係を築くには時間と投資が必要ですが、委託先と上記のような情報をやり取りするコミュニケーション能力こそが、強固なエコシステムを作り上げるための重要な要素の一つであると考えます。
情報収集に対するデジタルツールの活用
上記で、信頼できる委託先との強固なエコシステムを作り上げるには、収集すべき情報が多岐にわたることを述べました。企業はそれらの情報を集めるために、スプレッドシートに質問項目を入れて、委託先に回答をしてもらうことになります。取り引きする上で、企業のさまざまな部門が、それぞれにあまりに多くの質問をするので、スプレッドシートは分厚く(電子ファイルであればシートのタブが画面に入りきらないほど並ぶことに)なります。
これでは渡す側も受け取る側も、煩雑で面倒な作業になることは間違いありません。実際に、このやり取りに耐えられずに、委託先としての取り引きを中止してしまった企業もあるほどです。それほど確認しなければならない質問は多く、スプレッドシート(紙はもちろんのこと電子ファイルでも)の管理は、人的リソースに負荷をかけてしまうのです。
昨今では、この委託先管理の問題に、専用のソフトウェアやウェブ(ブラウザ)だけで管理ができるデジタルツールが登場しています。委託先のリスク管理を便利にかつ迅速に行うためには、このようなツールの活用が今後の主流になっていくと考えています。
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