転機は鬼怒川の堤防決壊

茨城県常総市の浸水被害
出典:国土交通省「国土画像情報(カラー空中写真)」(配布元:国土地理院地図・空中写真閲覧サービス)

「2015年、鬼怒川の堤防が決壊した報道を見て、当時地域を引っ張っていた方から中川沿いの各町会長に声がかかりました。『常総市があのような状態になったのは他人事じゃない。私たちも検討を始めたいと思っている』と、検討会立ち上げの相談でした」。そう話す今坂さんは後に、この検討委員会の代表として地域を引っ張ることとなります。

「『今坂さん、引っ張ってくれるかな?』と突然の打診で、防災のことがわからない私は何から始めたらいいのかもわからなかった。けれど引き受けることにしました」。地域のためにという考え方が、決心の後押しとなったそうです。

しかし「水害対策委員会」を立ち上げたのはいいけれど、活動資金がない。「まずは近隣6町会の会長さんにお願いして、1万円ずつ寄付してもらいました。会議に参加してもらった時の飲み物代くらいは集まったかな。でも具体的に何をしていいかわからないので『防災講習会』にとにかく参加しました。そこで出会ったのが松尾先生です」

この後の活動にも深く関わる松尾一郎氏との出会いが、今坂さんの活動に大きな変化をもたらします。

松尾先生は東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター客員教授でNPO法人環境防災総合政策研究機構環境・防災研究所の副所長を務める日本版タイムラインの第一人者。今坂さんはたまたま訪れた講演会の終了後、講師だった松尾先生のところに行き、名刺交換をされました。その時「6町会で水害対策委員会を立ち上げました。ただ、何から始めたらいいのか…」と、率直な思いを先生に伝えたそうです。

「素晴らしいことだな。手伝うよ!手伝わせてくれよ!」と、次の瞬間、耳を疑う一言が先生の口から発せられたといいます。松尾先生は近い将来発生が懸念されている地震や大規模水害に対し、区民が主体的に行う防災訓練の推進支援が必要だとかねてから考えられていたようでした。

6町会が集まってワークショップを開催

そこで、主体的に町会が連携して「水害対策委員会」を立ち上げている姿に感銘し、活動を共にすることを決められたそうです。何から始めればいいかわからなかった今坂さんにとっては、思ってもいなかった僥倖(ぎょうこう)。とにかく動いてみようということで、まずは委員会に属す6町会の方々に集まってもらい、自由に意見を出し合うワークショップを開催しました。