図2は、中国に関する情報を表示させた例である。

写真を拡大 図2. 国・地域ごとのリスク情報の表示例(出典:Marsh / Political Risk Map 2020)

この画面の上側には各リスク指標の直近の数値が表示されている。なお政治的リスクと経済的リスクに関しては、長期的評価と短期的評価とがそれぞれ表示されている。その下には各国・地域ごとの分析結果が文章で詳しく記述されている。
画面の下側には Country/Region Risk Index の直近5年間の推移が表示されているが、これは地図の表示を前述の4種類のいずれかに切り替えてからクリックすれば、その種類の指標のグラフが表示されるようになっている。

アジア地域におけるリスク指標の変化

図3はアジア地域における短期的政治的リスク指標の変化である。短期的政治的リスクの評価においては、政府の政策提案・実施能力、社会的安定性、政府の統治能力に対する差し迫った脅威、クーデターのリスクなどが考慮されており(注4)、数字が小さいほど不安定(Unstable)であることを示す。

写真を拡大 図3. アジア地域における短期的政治的リスク指標の変化(出典:Marsh / Political Risk Map 2020)

図では小さいが、香港の下げ幅が目立つ。これは言うまでもなく数カ月も続いている抗議活動の影響であり、将来的には中国からの軍事介入の可能性もあるということを含めて、全体で2番目に大きな悪化と評価されている(注5)。またインドにおいても、国内で発生した抗議行動や、中央政府と各州政府との間の緊張関係などから評価が下がっている。

本報告書では、同様に欧州、北米、中南米、中東、アフリカの各地域について、同様に分析・評価結果が説明されている。

本連載でこれまで紹介した他の保険会社からの報告書(注1)についても言えることだが、このようにグローバルな規模で損害保険を提供している企業から発表される報告書は、日本にいると分かりにくい地政学的リスクの全体感をつかむのに役立つ。

ところで、これらの報告書が発表される主な目的の一つは、言うまでもなく損害保険のプロモーションである。従って本報告書にも、これらの地政学的リスクに関連する損害保険(political risk insuranceの略でPRIと書かれている)に関する説明がある。

それによると、民間の保険会社においてPRIを引き受けようとする意欲(appetite)は高く、またPRIの市場が近年大きく発展しているため、保険引き受け能力はかつてないほどの高い水準にあるとのことである。このような記述から、グローバル規模の損害保険会社によってさまざまなPRIが提供されているだけでなく、このような保険を活用する企業が増えていることが分かる。このような損害保険市場のトレンドを知ることが、自社の損害保険の活用方法、ひいてはリスクマネジメントの取り組み全体を見直すきっかけになるかもしれない。そういう観点も含めて、アクセスしていただく価値のある報告書ではないかと思われる。

■ 報告書本文の入手先(PDF 15 ページ/約 3.0 MB)
https://www.marsh.com/us/insights/research/political-risk-map-2020.html

注1)本連載ではこれまで、損害保険会社および再保険会社による報告書を次の通り紹介させていただいた。

(2019/06/04掲載)
各国のビジネス環境におけるリスクの総合的ランキング2019年版
2019 FM Global Resilience Index
https://www.risktaisaku.com/articles/-/17700

(2018/04/24掲載)
政治的リスクやテロリズムの脅威を概観できるリスクマップ
Aon / 2018 Risk Maps
https://www.risktaisaku.com/articles/-/5900

(2018/03/06掲載)
四半期ごとに発行されるテロ発生状況レポート
Pool Re / Terrorism Frequency Report
https://www.risktaisaku.com/articles/-/5165

(2017/02/14掲載)
2016年の世界の自然災害による損失は過去4年間で最大。1位は熊本地震
Munich Re / Natural catastrophe losses at their highest for four years
https://www.risktaisaku.com/articles/-/2387

注2)本報告書の日本語訳は次の URL で公開されている。
https://www.marsh.com/jp/ja/insights/research/political-risk-map-2020.html

注3)国・地域ごとの情報はWebサイト上で表示されるのみであり、PDF ファイルの報告書には記載されていない。

注4)原文では次のように説明されている: This report considers the changes in the short-term political risk index (STPRI), a measure that takes into account a government’s ability to propose and implement policy, social stability, immediate threats to the government’s ability to rule, the risks of a coup, and more.

注5)ちなみに最も悪化したのはスーダンで -14.6 である。