各社で受け入れ判断分かれる

東日本大震災では、都内の多くの百貨店が帰宅困難者を受け入れた。来年4月に施行される東京都の帰宅困難者対策条例では、首都直下地震に備え、大規模集客施設に、帰宅困難者の避難場所としての役割を求めている。一方、百貨店は、立地や建物の形態によって受け入れ能力は異なり、業界内でも各社の対応方針は様々だ。周辺にオフィスビルや商業施設が多く、ビジネスマンや観光客が集中する日本橋の高島屋と、新宿駅に直結する小田急百貨店に東日本大震災での対応と今後の対策について取材した。

■現場の判断で施設を提供
東京日本橋にある高島屋日本橋店(売り場面積:約5万㎡・地下1階地上8階、従業員数:約5000人)では、3月11日の震災で約500人の帰宅困難者を受け入れた。同社のBCPには、帰宅困難者の受け入れに関するマニュアルはなかったが、発災から時間の経過とともに、百貨店周辺で帰宅困難者が混雑し、店の前に動けない人がいるなど周辺地域の滞留者についての報告が入ってきた。店舗建物に構造上の大きな被害が無かったため、帰宅困難者の受け入れ可能との現場報告に基づき、鈴木弘治社長が同日夕方に一時避難施設としての受け入れを決断した。 

「毎年実施する防災訓練では火災による避難誘導を想定しており、お客様には館内に留まるのではなく、従業員の誘導により屋外に出てもらうようにしていた」と高島屋総務部リスクマネジメント担当部長の小森智明氏は話す。東日本大震災では、火災は発生せず屋外への避難誘導は必要無かったものの、激しい揺れであったため、発災直後は、店の自衛消防隊が中心となり、来店されていた買物客を一旦、店内の安全な場所に誘導した。 

夕方には、店内に受け入れた帰宅困難者も余震が発生していたために、揺れの影響が少ない1階と地下1階へ誘導し、バックヤードから会議室用の椅子などを用意して、できるだけ楽な姿勢で過ごしてもらうように呼びかけた。また、館内放送で交通の復旧情報を流し、1階にはテレビを設置して情報発信を続けた。 

夜間には、災害対策用に備蓄していた水(1人あたり1.5リットル)と乾パン、クッキーなどの非常食や毛布も配布。交通のストップにより、翌朝まで館内で過ごした人には、地下食品売り場で作った焼き立てのパンを配布した。