川崎市健康安全研究所所長 岡部信彦氏

新型コロナウイルスの感染による肺炎が中国を中心に拡大。世界各国で人から人への感染が発生し、日本でも不安が広がっている。いま何が起こっているのか、一般の市民や企業が気をつけるべきことは何か。感染症と公衆衛生を専門とする川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長に聞いた。
※本インタビューは1月29日取材時点の情報にもとづいています。

人の行動と環境が変化している

Q1 いまどのような危機が起こっているのですか?

SARS(サーズ)、MERS(マーズ)、新型インフルエンザなど、新しい感染症が数年おきくらいに続けて発生していますね。ここ20~30年、人間がこれまでかかっていなかった感染症が増えてきています。「新興感染症」といっていますが、それが我々の置かれている環境であり、また世界共通の感染症への注意です。

近代初期に流行したような病気は、ずいぶんなくなりました。昔は伝染病(感染症)にかかると打つ手もなく人が死んでいましたが、抗生物質(抗菌薬)やワクチン、治療法の開発、水や食べ物の改善などによって、危険な感染症は我々のそばから遠のいてきたわけですね。

しかし遠のいてきたがゆえに、一時、感染症に対する油断が出ました。たとえば、忘れていた結核が実はいま身のまわりに意外にある、ワクチンを接種しないと麻疹(はしか)が増えてしまうといった油断です。日本になくても海外にはある、ということもあります。

そして最大の問題は、そうした病気が地球上の1カ所の流行では済まなくなってきたこと。アフリカの病気がヨーロッパに来る、中国の病気がアジア全体に広がる、さらに世界に広がる。今回の新型コロナウイルス肺炎もまさにそうしたケースです。

一つには、ヒトやモノの動きが活発になったことがあげられます。短時間に、大量に人やモノが動くということは、同時に、病原体があちこちにバラまかれる可能性も高くなったということです。

もう一つは環境の変化で、人の居住地が広がっていった結果、野生動物との接触が多くなってきた。食料として取り扱う野生動物も含めてです。

以前から人が持っていた感染症は、確かにコントロールされてきました。しかし、動物のなかにいる病原体が、動物だけで循環している分には問題ないのですが、たまたまそこに人が入っていくと、人にとって病気の原因になる。そうした現象が起きやすい環境になっていることも、考えないといけないでしょう。

Q2 新型コロナウイルスの感染はいまどの段階に来ているのですか?

最初は、病原体となった動物に接触した人に偶然うつったと考えられます。そこから、たとえば病人に付き添っている家族などにうつる。濃密な接触による感染です。ただ、インフルエンザのようにどんどん病気を周囲に振りまく状態ではない。最初にウイルスが見つかったときは、そうした段階だったと思います。

しかしいまはもう少し段階が進み、少数の人から人へうつる。以前なら特定の場所にとどまっていたのが、みな活発に動くものだから、動いた先でうつし始める。いまはその段階に来ているとみられます。