2019/12/24
インタビュー
東急グループでは、事業継続(BC: Business Continuity)への取り組みを強化している。不動産業界全体のBCP策定が伸び悩む中、東急ファシリティサービスでは危機管理担当者だけでなく、経営幹部・全幹部社員・管理職社員がBCM(事業継続管理)教育の専門組織であるDRIジャパンの研修を受講し、日々のあらゆる業務の中にBCの概念を定着させている。同社のBC研究センター副センター長の真城源学氏(専門研究分野:BC・地域レジリエンス)に、そのねらいを聞いた。
■不動産業界のBCへの取組み
不動産業界はBCへの取り組みが進んでいないのが現状です。帝国データバンクが2019年5月に実施した、全国の企業を対象としたBCP策定割合の調査によると、BCPを「策定している」と回答した企業の割合は15%、そのうち不動産業界が占める割合は7.8%で、全業界の中で最も低い(「日本経済新聞」より)結果が出ています。
私が推察するに、これは、ビル経営が収益源となりうる快適空間の設計や実装には相当な程度で投資を行う一方で、ビル管理などのコスト的な発想のものに対しては消極的であった結果だと捉えています。業界全体として、有事の際の対策・対応にはどうしても意識が低くなる傾向があり、また意識があっても、日頃のB/S、P/L、C/Fを考えると、二の足を踏んでしまい、十分な取り組みまで進んでいないのが現状かもしれません。
■全組織横断の「BC研究センター」を設置
当社は不動産業の中でもビル管理業を行っていて、従業員数は約2000名。東急グループが建設したビルを中心に約1500の大小様々なビルを管理・運営しています。大型ビルの代表的なものは、渋谷駅周辺では、渋谷ヒカリエ、渋谷ストリーム、渋谷ブリッジ、セルリアンタワー、郊外では、二子玉川ライズ、たまプラーザテラス、南町田グランベリーパークなどです。
私はBC関係の仕事をして約15年になります。この仕事柄、経営者の方とお話することが多いのですが、皆さん口をそろえて「BCは経営そのものだ」とおっしゃいます。しかし、感覚的には分かっていても、BCへの取組みにはなかなか踏み込めていないのが現状と捉えています。そのため当社では、BCを経営そのものと位置づけるのはもちろんなのですが、東急グループの不動産事業の中核を担う立場や、地域社会への貢献も最大限考慮しながら、ビル経営にBC視点を入れるようにしています。有事の際のビル経営の継続はもとより、日頃の収益化にもつながることをビルオーナー様に知っていただくため、具体的な提案をスタートさせています。
たとえば、経営トップを中心に、全社を挙げて強力に推進させるため、全組織横断の「BC研究センター」という組織を作りました。この組織は専任メンバー8名に加えて、全部門長12名が兼務しています。専任メンバーには、グループ企業からの出向者も入りバリューチェーンを強化しながら、活動を進めています。また、同センターではBCに関する専門講座、講演会、セミナー、訓練・演習を行っています。他には、企業への脅威は多種多様で想定外がつきものなので、そういった難しい問題を解決していくため、学識者や同グループ企業、行政にも参画してもらいテーマ別の「研究会」を作り運営しています。これらは当社やオーナー様のメリットに限らず、参画される皆さまにもメリットにつながるよう取り組んでいます。
■信頼と実績があるDRI研修
DRIジャパンの研修コースを採用しようと考えたのは、BCを体系的に学習することが一番の目的でした。どうせやるなら、世界に通用するBCを学び、より会社を強くしたい、競争力をつけたいという考えからも、グローバルスタンダードのDRIに決めました。
DRII(Disaster Recovery Institute International)は1988年に米国で設立され、世界の組織があらゆる災害に対して、“備え”“復旧”し、“サバイバル”できるように、BCの専門家を育成するための教育と資格認定を行っている機関です。現在、日本を含め世界78カ国に支部があり、100カ国以上で1万5000人を超える専門家がいて、フォーチューン100社の94%の企業がDRIの認定者を専門家として採用しBCMを実践しているということで、信頼と実績に魅力がありました。
米国に拠点を持つ本部組織DRIIが開発した事業継続教育プログラムで、受講後の資格試験に合格するとBCM資格を取得できる。
BCLJ501コースは、事業継続専門家のため専門業務10項目をカバーし、2.5日で約14時間の研修と、それに続く認定試験がある。
詳細:https://www.risktaisaku.com/articles/-/21278
■グループ会社や顧客にも広げる
当社は昨年度、DRIのプログラムを同センターの「BC人材育成講座」の一つのプログラムとして開講し、経営幹部・全幹部社員・管理職社員(グループ各社の幹部も含む)を対象に実施しました。この講座には約40名が参加しましたが、このレイヤーから受講してもらったのは、経営に近い職責の方にBCの重要性・必要性について理解してもらうことで、BC活動の資源と支援をもらい、活動を円滑に進めることでした。実際に受講者からは、「BCを体系的に学ぶことができた」「活動の進め方や優先順位がわかった」「BCについて話すときに共通言語ができた」というプラスの声が多く寄せられました。
この講座は今年度も継続させ、対象者を広げ実施しています。今後は当社やグループ会社に加えて、広くオーナー様へ広げていきたいと考えています。
参考:東急グループおよび東急ファシリティサービスのBC活動の目的や活動内容を分かりやすくまとめた『BC FACT BOOK』
http://www.tokyu-fs.com/bc/pdf/tokyugroup_bc_fact_book.pdf
(了)
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