2012/07/25
誌面情報 vol32
日本政府の災害対応計画は、縦割りの省庁の個別の計画によって成り立っている。これらの計画は、幾度も被災現場の状況把握や処理対応において失敗を招いた。原因の1つとして、政府内に訓練を受けた実務経験のある災害対応の専門家が不足していることが挙げられる。その結果、3 月11 日における政府の対応はうまくいかず、多くの人が、必要以上に苦しんだ。例えば、下記の問題は常に報告されていた。
- 食糧や薬など物資不足に苦しむ地域がある一方、 必要としない地域に多くの物資が配達されていた。
- 多くの寄付は、政府の支援物資の受け取りの管理能力不足によって拒否された。
- 現場の医療従事者からの緊急の要求に対して回答が出せなかった。
私が出会った災害対応の内閣官房と内閣府の職員は、一様にして有望かつ献身的で、勤勉家に思われたが、災害対応の実務経験者はほとんどいなかった。さらに、昨年の震災を経験した職員の多くは、任務を終えると、すぐにまた別の部署に異動してしまうだろう。省庁の組織図を見ると、内閣官房は、「災害対策の専門委員会」と名付けられているが、実際は「専門家」ではなく、エリート官僚の集まりだ。
私が日本で出会った真の災害対応の専門家は、自衛隊、消防隊、医療従事者、NGO だったが、日本政府は、災害対応計画を強化するために、こうした専門家の知恵に頼ることはなかった。
11.最大の難点 今回の災害をフィードバックする仕組みが存在していない
最悪なことは、日本では、今後も大規模な災害が起こる可能性が高いにもかかわらず、このような災害が生じた際への備えを改善するための仕組みがまったく構築されていないように思えることだ。
7つの提言
1.日本の災害対応部隊や専門家の経験から学ぶ
46 日間に及ぶ日本滞在で、私は、巨大災害に対応した人達や専門家と、上記に示したような、地震、津波の災害対応での成功談、失敗談など多くの話を聞いた。しかし、28 人のインタビューと20 回の講義の中で、私は一度も、日本政府が未来の災害の対策強化に備え、こうした専門家の意見を聞くために、政府に招いたという話を聞かない。
目下のところ、災害対応計画を担当する省庁も、実際に災害が発生した際の対応の責任者もいない。責任は、異動を繰り返す多くの官庁職員の間で、散らばってしまっている。
日本政府は、未だ具体的な災害を想定して地震のための計画、津波の計画、テロ事件の計画など個別に災害対応計画をつくる。こうしたアプローチは、非常に時代遅れであり、現実とのギャップにより、混乱を招き実践的でない計画を導く。
1.輸送
2.コミュニケーション
3.公共事業
4.消防
5.応急対応
6.被災者のケア、応急対応のサポート、住宅供給、福祉
7.後方支援の管理、資源のサポート
8.公衆衛生と医療サービス
9.救助と捜索
10.石油と危険物の対応
11.農業と天然資源
12.エネルギー
13.治安
14.長期間での地域社会の復旧
15.対外部門
8 番目の「公衆衛生と医療」は、特に個別災害対応とオールハザードの違いが明確に表れる。日本政府は、DMAT が阪神大震災と類似したシナリオにのみ対応していた。阪神大震災の教訓から日本DMATは地震による外傷の治療体制は整えていたが、津波によって引き起こされた多くの健康問題や医療問題に対しては、ほとんど準備できていなかった。
●外傷
●公衆衛生
●メンタルヘルス
●障害者支援
上記の通り、日本政府省庁間のつながりのない縦割りの災害対応計画を作成している。過去にも多くの災害で失敗してきた。例えば、東北地方のある医師の話では、生存者が、危険な化学物質が混ざった汚染水を津波の水から摂取した恐れがあることから、そこから引き起こされる健康傷害について対処しようとした。しかし、医師が政府からの支援を求めると、この問題について3つの省庁が管轄していることが明らかとなった。医師は、被災地の中で救助活動に従事する最中にもかかわらず、どうにか3つの省庁から対応を得ようとしなければならなかった。
5.米国のNIMS のようなインシデント管理システムを施行する
「インシデント管理」とは、抽象的な概念のようにみえるが、それこそが、実際の災害においては現実となる。大規模災害の対応は、より広域にわたった管理が求められる。例えば、管理ができていないと、町の数か所で、物資や人的支援が過剰供給となる一方で、他の町が無視されてしまうようなことが起きる。私が取材した救援部隊の人達は、3 月11 日の災害の最中に自分たちで管理体制を作り上げなければならず、被災地域にバラバラに散らばった多くの生存者に、省庁管轄をまたいで多様な奉仕活動をまとめて提供しようと話した。対処の優先順位は?すべての地域での達成をいかに早めるか?支援や資源分配の重複はどのように避けるのか?災害対応の最中は、重要な問題についてどのように対処すべきか?新たに体制を考えて作り出す時間はない。国で承認されたインシデント管理体制を構築するためにも米国のNIMS(National Incident Management System)など既存の体制を考慮すべきだ。
6. あらゆるレベルにおいて日本の緊急援助の責任者を訓練、スキルアップする
現在の日本の枠組みにおいて、緊急援助の責任者は一般的に緊急事態における現場管理に関する組織的な訓練をほとんど受けた経験がない。それぞれの責任者は一時的に危機管理関連の部署から管理者として任命されても、2 年ほどの定期的な異動により、その任務から外される。日本のような先進国でもそのような必要不可欠な分野での管理者の訓練が行われていないことは私にとって理解し難い。仮に私が命に関わる重大な手術を受けることになった場合、十分な訓練を受けておらず、各々の判断で勝手に動いている外科医に手術を依頼したいとは思えない。ではなぜ災害管理のような、避けて通れない分野において個々の管理者の体系的な訓練がおろそかになっているのだろうか。日本はただでさえ地震や津波、火山やその他あらゆる自然災害の危険を有する国であり、将来来たる災害の際にNGO の分野のみならず、国、地方自治体、市レベルにおいて熟練した災害管理者が必要になると私は考えている。課題の10 番目で言ったように、日本は災害時にリーダーシップを発揮でき、災害対応の知識を持った専門家を育成できる可能性を有している。
7. NPO、ボランティア、寄付の役割に関して
ボランティア活動と被災者に対する救援物資や義捐金などの寄付は、災害が起こる前に事前に用意されていれば、実際に災害が起きた際に非常に有益な支えとなりえる。しかし、仮にそれが事前に用意されていない場合、2011 年の災害でそうであったように、ボランティア活動と被災者に対する寄付は政府機関にとって負担とみなされがちである。課題の4番で明らかにしたようにNPO は政府からどのよう
な救援物資を被災地のどこに送ればよいのかなどの有益なアドバイスを受けることはほとんどなく、各NPO の判断と個人的なつながりによって災害援助に関する判断がされている。食料のような必要不可欠な救援物資の供給は被災者がまさにそれを必要としているのに政府から積極的には行われていない。
一方、不必要な分野への過剰な物資の供給や資金援助は食料や医薬品の過剰供給をもたらし、本当にそれらを必要としている分野に対しての供給が不足する。
このように重要な救援物資の消極的な供給の代わりに、あるいは無計画にそれらの重要な救援物資を浪費する代わりに、私は将来起こりうる災害に対して日本の政府機関がNPO、ボランティア団体そして災害基金を協力して、より効果的にそれらを使用するための計画を立案することを提言する。
結 論
日本は地震や津波、火山活動などあらゆる自然災害の危険性を伴う国であり、そのような自然災害に加えて化学物質による汚染、原子力に関する事故、大規模な交通機関に伴う事故、あるいは産業的、人為的な事故の危険を有する国でもある。また今日、他の多くの国と同じように日本もテロリストなどの脅威に常にさらされる国でもある。
幸いにも、日本は災害に対処する多くの資源を持っている。
●日本は、災害に対応し、それを防ぐことができる豊かな近代産業国であること
●日本は民主主義国家であること
●日本には、より強固な災害対応体制を築くことができる多くの経験豊富な災害対応の専門家を有していること
●おそらく最も重要なこととして、日本は、緊急時にお互い助け合おうとする強い絆を持つ社会であること
2011 年3月の災害は壊滅的で、模範となる災害対応の体制さえも変えなければいけないかも知れない。しかし、災害が壊滅的であり、困難であることが災害対応計画を無視する言い訳であってはならない。むしろ、懸念される将来の大規模災害に対してできるだけ実践的で効果的な計画を作成する動機とすべきだ。
※ このレポートは、ボスナー氏がまとめたレポート「大規模災害への対応 日本の災害対応は改善されたのか」の一部を翻訳したものです。
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