正しさや安全を図るメトリックス(=KPI)

アマゾンの仕組みづくりの基本に「メトリックス」があります。これはいわゆるKPI(=Key Performance Indicator)で、事業が正しく行われているかを数値化して管理するというものです。当然ながら安全に関してもこのメトリックス化が行われています。アマゾンの場合、米国の上場企業ですから、その制度や規制に準拠した形でのオペレーションを要求されます。その一つに「OSHA(オーシャ)」があります。

OSHAとはOccupational Safety and Health Administrationの頭文字を取ったもので、米国労働省の機関である労働安全衛生管理局のことです。米国の職場で発生する傷害や疾病、死亡者数を削減するべく発足した組織で、労働者の安全、健康を維持するためにさまざまな活動を行っております。そのOSHAが定めた指標に「Recordable Incident(記録保持が必要な事故)」と「Lost Time Incident(休業災害)」があり、アマゾンではこの2つをメトリックスとして毎週確認しています。

Recordable Incidentは主に医師の処置を要求される事故で、その計算方法は「(発生事故件数×20万)÷事業所の総労働時間」となります。20万という数字は100人の労働者が週40時間50週働いたときの労働時間になり、100人の労働者当たりに何件事故が起きるのかということを計算しています。これを低く抑えることがマネージメントとしての責務なのです。このように常に指標で管理することで、チームの安全に目を配るというのが一つの仕組みになっています。

Lost Time Incidentも同様で、こちらも100人の労働者あたりの休業災害を指標としていますが、これは会社の健全な経済活動を阻害する要因がどれくらい発生しているのかということを主に確認するものです。当然ですが事故が起こり、それが休業災害であれば、その分の生産活動を行うことができず、会社の経営に影響を与えるものだからです。

こうした指標を毎週確認することでオペレーションが健全な状態で行われているのかということをトップマネージメントから常に目を光らせているのです。

安全10カ条と安全パトロール

もう一つの仕組みとして「安全10カ条」と「安全パトロール」があります。安全10カ条に関しては前回で詳しく書きましたのでそちらをご参照いただくとして、その安全10カ条をベースに、日々安全パトロールを行うことで安全な環境維持に務めています。それぞれの倉庫では毎週2項目、安全10カ条から重点項目が選ばれ、それを集中的に確認していくのです。その確認のプロセスが安全パトロールです。
毎日午後2~3時ぐらいの間に、持ち回りの担当部署のマネージャーと協力会社(3PLパートナー企業など)が協力して全館の安全確認を行います。その際には大きなハンドベルを持ち、それを鳴らしながら構内を巡回します。その週の重点項目は朝礼時などに唱和をすることで意識づけされていますので、そのベルの音を聞いた作業者たちはそこで今一度重点項目を思い出し注意をするという仕組みです。これは1年365日休まず行われ、構内の安全確保の仕組みとしてもう10年以上継続されています。

重点項目は当然のことながら確認されるのですが、それとは別に、構内で見かけた不安全行動や危険個所などは全てレポートとして報告され、全マネージャーに共有、問題の是正が即時要求され、当該部署はその経過報告も行うことが義務付けられています。これらはオペレーションのシニアマネージメントにも同報で送られているので、特に気になる問題などは直接センター長への聞き取りなどが行われることもしばしばあります。こうしてさまざまな目をもって現場を確認することによって、最も大事な安全が確保されているわけです。

このようにアマゾンでは、安全を維持するさまざまな仕組みが導入されていますが、それを現場だけで支えるという事は中々難しいです。従って、それを専任で受け持つチームが存在し、そのチームがオペレーション全体の安全を確保すべく活動をしています。

次回は、その安全を守る組織についてお話ししたいと思います。

(了)