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われわれには備えがない

「政府の第一の責任は公の秩序を維持することである」
                         ―ロバート・エルスワース・ワイズ・ジュニア

カトリーナの余波 パート1
2005年8月30日 緊急事態対策本部
ルイジアナ州ニューオリンズ市ダウンタウン

ニューオリンズ市緊急事態準備部副部長のカール・メテイリーは40時間以上寝ていなかった。市の首席行政官のオフィスの9階にある薄暗い緊急事態対策本部(EOC)の混沌の中を歩くとき、自分の将来にうたた寝などというものがあるとはとても思えない。典型的な日には大きな会議室くらいのこのスペースで30名は快適に仕事をすることができたであろう。今は、立ち止まっているグループ、机に座っている人、静かにしている人、そうではない人、会話をしている人、電話をしている人、壁に掛けられた一列のテレビモニターをぼんやり見ている人で、少なくとも100名の人がいる。

夜間にロジスティクスチームは階下の8階の会議室に移るよう命じていた。その後彼らからは何も連絡がない。キャスターとぞっとするシーンの映像がテレビ画面でひらめくとき、2台の携帯電話とデスクの上の電話の鳴る音が混じり合う。

メテイリーは上司と話をしたいのだが、陸軍大将と病院の事務長がかわるがわる彼を独占している。彼の背後には4~5人の列がいくつかできていた。市の報道官が人混みを押し分けて進み彼に手を振る。メテイリーは5分後に始まる市長の記者会見のためのトーキングポイントを彼に渡さなければならない。

1~2時間前、メテイリーはトーキングポイントをつくるために30分もかけていた。しかし分からないことがあまりに多い。ニューオリンズ地下鉄の止水堤はほとんどが決壊していた。州間高速道路10号線の橋を含む市内の主要な道路の大部分に損害が発生していた。どこにも行く場所のない人たちが“最終の避難所“であるスーパードームとコンベンションセンターに現れているとの知らせも入り始めている。窓から外を見ると、ハイアットリージェンシーの窓が吹き飛んで、ベッドがぶら下がっているところもある。市と世界は市長の話を聞く必要がある。しかし混沌の中からは、メテイリーでさえ外がいかにひどい状況になっているかを知る由もない。

地域のEOCはあらゆる災害対応の中心であり、中でもハリケーン・カトリーナが上陸した直後の数日間はニューオリンズのEOCは地上で最も忙しい場所であった。

8月下旬の長く暑い日々の間、クライシスは混沌の混合物でニューオリンズを攻撃するために力を蓄えてときをうかがっていた。それは電力・堤防・道路・食料・医療衛生サービス・住宅などの重要なインフラをユニークな前例のない方法で途絶させることを意図したものである。

カール・メテイリーとそのチームは、クライシスの初期段階の20、200あるいは1200という途方もない課題と格闘していた。彼らは助力を必要としていた。

しかしその援助はどこにあったのか? ニューオリンズが必要としていた騎兵隊はどこにいたのか?