2019/09/20
危機管理の神髄
米国災害システムの神話
カトリーナの余波 パート2
2005年8月30日 ルイジアナ州シェリーブポート FEMA指揮所
そうこうしている間に、300マイル真北のシェリーブポートで、メラニー・バートンは静かでエアコンのきいた快適な場所にいた。FEMAの若手職員であるバートンは全国緊急事態対応チームの勤務となりルイジアナに派遣されると言われていた。3日前に機上の人となりバトンルージュに到着した。
バートンは何をすることになるのか良くは分かっていなかった。ブルーチームの9名ほどの他の若手職員と同様、彼女はそのための訓練を受けていなかった。彼女は誰に質問をすればいいのかさえ知らなかった。ブルーチームがバトンルージュのルイジアナ州EOCに着任したときは忙しかったし、その上自分たちの部屋もなかった。そのかわり誰かに”指揮所“を設営するよう言われた。その結果シェリーブポートのホテルの宴会場に座って、同僚が電話で友人とおしゃべりをし、気ままにインターネットを見ているかたわらで、テレビが映し出す恐怖の様を凝視しているのだ。
バートンのFEMA指揮所の静けさはニューオリンズEOCの混乱とは極めて対照的である。FEMAはカトリーナが上陸する前に緊急事態対応チームをルイジアナ州のEOCに展開していたが、その部隊を州のものと結合させることはできなかった。同様に州もニューオリンズ市の部隊と合流させることができなかった。
クライシスがもたらす人間ニーズの大波に対処するために政府の対応は十分大きく、十分迅速であるべき重要な初動のときに、そのさまざまなパーツは互いにばらばらであり、ちぐはぐな目的で動いており、時間を失っていた。
被災した共同体―高齢者・障がい者・子供・家族―にとって不幸なことには政府は迅速に対応することができなかった。援助は何日間も、場合によっては何週間も来なかった。
緊急事態における政府の責任
10人中9人のアメリカ人は災害対応においては政府が主導的な役割を果たすべきであると言う。それは、政府のみが提供することのできるサービスにわれわれが依存しているからである。例えば消防・法の執行・国防などのサービスは社会という布を織りなす糸であり、日々の秩序ある世界を可能にしてくれるものである。これが、すなわち公の秩序を維持することが政府の最も重要な責務である。
秩序の維持とは、自動車事故、住宅火災からハリケーンまで緊急事態の現場へ駆けつけることである。それは道路の穴を埋めることから学校での教育まで現代の社会を機能させるために必要な他の全ての毎日のサービスを提供する傍ら、重要なインフラの損害を修復し人々を助けることである。
災害ビジネスでは、政府が災害を“所有する(責任を持つ)”という。
“所有(own)”という言葉の意味するところは人によってさまざまである。家や自動車のような物を所有することである場合もあるし、人生における選択に対して個人的に責任を持つ(所有する)という概念のことを指すこともある。災害に関しては、どちらかと言えば後者の意味である。それは説明責任(accountability)のことである。プロセスや結果に十分な権限がなくても主導権を持つことである。この種の責任(所有)は単なる応答責任(responsibility)を超えるものである。応答責任は上司または職位によって任されるものである。災害に対して責任(所有)を持つ者は自ら進んで失敗の結果に向き合わなければならない。
これが政府のやることである。他のすべての者が災害から逃げるとき、それに立ち向かう必要がある。それは災害に対しての究極的な応答責任であり、やれたこと、やれなかったことの説明責任である。このストーリーはこれで終わりである。
そうでない場合を除いて。
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/07/01
-
-
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
-
-
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方