企業情報を4段階に分け共有

NCSCの大きな成果として、「企業間の情報共有が進んでいる」という。企業情報は機密性で赤・黄・青・白に分類され、白は公に、青は業界間、黄は親会社などグループ企業間で共有が可能。赤は重要な個人間のみで共有するという。「情報共有が業界、そして英企業を守る」とグラント氏は評価する。特に輸送やエネルギー、インフラ企業のセキュリティ支援には注力。こういった企業にはエンゲージメントチームという専任スタッフによるチームが支援にあたる。またそれ以外の企業もCiSPと呼ばれるオンラインのプラットフォームがあり、ここを通じ支援を申し出て受けることも可能だという。さらには「サイバーエッセンシャルズ」と呼ばれる企業向けの自己診断テストも用意されている。質問に答える方式で、サイバーリスク対策がとられているかを確認することができる。

それでもグラント氏は「英国でも防御や演習が十分でなく、まだまだ企業は備えができていない。対策には時間がかかる」と分析。特に取り組みが優れた企業をNICSが認定するCIR(サイバー・インシデント・レスポンス)企業はまだ7社で、「中小企業も含めてもっと増やしたい」と意気込む。人材育成へ30の大学と認定トレーニングコースによる修士号など学位取得の協定を結ぶほか、11~17歳を対象としたサイバーセキュリティのプログラムも組んでいる。

近年の傾向として「クラウド利用が進んでいるが、まだ認識が不十分な企業が多い。メールのデータが盗まれ、クラウド侵入を許すケースもある」とグラント氏は警戒する。またフィッシングやランサムウェアにも注意が必要とし、ランサムウェアでは2017年に起きた、医療機関が利用する国民保険サービスのシステムへの攻撃が教訓となっているという。また国際的にみると「中国やロシア、北朝鮮などによる、もしくは後ろ盾となって英国に行っている明らかなサイバー攻撃があり、やめるよう公に申し入れている。逆に米国などパートナーとなる国とも協力を行っている」とグラント氏は語った。

2020年東京オリンピック・パラリンピックを控える日本のサイバーセキュリティについて、グラント氏は「メガイベントに対してはどういうリスクがあるか、攻撃を特定できるか考え、さらにどう防御するかが大事」とアドバイス。何かあった時のための複数の省庁による演習が重要だとした。また、「対応するための閾値(しきいち)は低く設定した方がいい。ちょっとしたことでも対応できるようにすることが、レスポンスのスピードを上げる」と語った。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介