2019/09/10
インタビュー
企業情報を4段階に分け共有
NCSCの大きな成果として、「企業間の情報共有が進んでいる」という。企業情報は機密性で赤・黄・青・白に分類され、白は公に、青は業界間、黄は親会社などグループ企業間で共有が可能。赤は重要な個人間のみで共有するという。「情報共有が業界、そして英企業を守る」とグラント氏は評価する。特に輸送やエネルギー、インフラ企業のセキュリティ支援には注力。こういった企業にはエンゲージメントチームという専任スタッフによるチームが支援にあたる。またそれ以外の企業もCiSPと呼ばれるオンラインのプラットフォームがあり、ここを通じ支援を申し出て受けることも可能だという。さらには「サイバーエッセンシャルズ」と呼ばれる企業向けの自己診断テストも用意されている。質問に答える方式で、サイバーリスク対策がとられているかを確認することができる。
それでもグラント氏は「英国でも防御や演習が十分でなく、まだまだ企業は備えができていない。対策には時間がかかる」と分析。特に取り組みが優れた企業をNICSが認定するCIR(サイバー・インシデント・レスポンス)企業はまだ7社で、「中小企業も含めてもっと増やしたい」と意気込む。人材育成へ30の大学と認定トレーニングコースによる修士号など学位取得の協定を結ぶほか、11~17歳を対象としたサイバーセキュリティのプログラムも組んでいる。
近年の傾向として「クラウド利用が進んでいるが、まだ認識が不十分な企業が多い。メールのデータが盗まれ、クラウド侵入を許すケースもある」とグラント氏は警戒する。またフィッシングやランサムウェアにも注意が必要とし、ランサムウェアでは2017年に起きた、医療機関が利用する国民保険サービスのシステムへの攻撃が教訓となっているという。また国際的にみると「中国やロシア、北朝鮮などによる、もしくは後ろ盾となって英国に行っている明らかなサイバー攻撃があり、やめるよう公に申し入れている。逆に米国などパートナーとなる国とも協力を行っている」とグラント氏は語った。
2020年東京オリンピック・パラリンピックを控える日本のサイバーセキュリティについて、グラント氏は「メガイベントに対してはどういうリスクがあるか、攻撃を特定できるか考え、さらにどう防御するかが大事」とアドバイス。何かあった時のための複数の省庁による演習が重要だとした。また、「対応するための閾値(しきいち)は低く設定した方がいい。ちょっとしたことでも対応できるようにすることが、レスポンスのスピードを上げる」と語った。
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方