※写真はイメージです。

タイ政府は2001年以降、外資誘致・内需振興・輸出拡大を目指す「Dual Track政策」を掲げ、安定的な経済発展を続けており、2015年のGDPは3,952.88億ドルで世界第27位、ASEANではインドネシアに次ぐ経済規模となっています。関連法制度等も整備されていることから、投資環境も良好であり、日本企業の進出も拡大を続けており、2015年10月現在の日本企業の進出企業数は1,725社に達しています。

政治体制は立憲君主制で、プミポン(Bhumibol Adulyadej:ラーマ9世:Rama IX)国王が1946年6月9日から在位しています。政治体制は比較的安定的ですが、同国王即位後からこれまで、少なくとも19回のクーデターが発生し、その度に憲法が改正される等、懸念される面もあります。

タイでのビジネスでは、洪水等の自然災害リスク、上記のような政治問題等のリスクがありますが、昨今、社会問題が大きくクローズアップされています。まず、格差問題ですが、タイのジニ係数は0.484となっており、格差が問題となっているフィリピン、マレーシアよりも高く、ASEANで最も格差が大きい国となっています。特に、北部を中心とする農村部とバンコクを中心とする都市部での格差といった地域間の格差が大きな問題となっています。

1997年憲法において選挙制度が大きく変わり、小選挙区が導入されたことにより、農民・低所得者層の政治参加が加速され、2001年1月の総選挙では、これらの支持を背景にタクシン政権が誕生しました。しかし、それまで既得権益を独占していた保守派・軍部と対立することとなり、2006年9月には国軍によるクーデターに発展しました。その後、タクシン派、反タクシン派による大規模デモ、両派の衝突等が繰り返され、2014年5月には再度国軍によるクーデターに発展しています。そのため、この両派の対立は一種の階級闘争の様相を呈しており、終息の兆候は見られません。

また、タイにおいては、HIVの感染リスクが高くなっています。タイの成人のHIV感染率は1.1%(UNAIDS)でアジア最大となっており、現地の医療機関等で輸血を伴うような治療については、留意する必要があります。

その他の社会問題としては、麻薬問題が挙げられます。タイでは麻薬が蔓延しており、タイ政府もその対策を厳格化し、最高刑を死刑としていますが、終息の兆候は見られません。一方で、タイでは麻薬犯罪捜査において、密告制度、おとり捜査等があり、「やせ薬」として買ったものが麻薬で、買った直後に逮捕された等のケースも後を絶ちません。在バンコク日本大使館もHPでタイに滞在する邦人に対し、下記のような注意喚起をしております。(原文そのまま掲載しています)

『タイ当局は麻薬・薬物犯罪を厳しく取締まっており、違反した場合の最高刑は死刑です。ゲストハウス(安宿)やディスコ、空港、路上等においても、警察が随時取締り・摘発を行っており、禁止薬物を所持又は使用していたという薬物犯罪により、逮捕され、タイ国内の刑務所に長期間にわたり受刑している日本人受刑者もいます。薬物を所持していた場合には、「他人から中身を知らされずに預かった」、「禁止薬物とは知らなかった」等の弁解は通用せず、場合によっては、販売目的所持として起訴され、殺人罪よりも厳しい罰則(死刑、終身刑、50年の懲役刑等)が科されます。絶対に安易な気持ちで麻薬・薬物に手を出したり、他人から荷物を預かったりすることのないように注意してください』

また、麻薬に関しては、日系企業の工場内でも蔓延しているケースも報告されていますが、麻薬取締対策法においては、日本企業を含めた企業側に多くの義務(警察当局への迅速な通報と捜査協力等)を課しており、違反した場合には処罰の対象ともなります。

(了)