救出活動の限界

一方、公設消防の力には限界がある。被災がひどかった大北地域に限っていえば、公設消防により救出された例はわずか2件にとどまる。

地震が発生した11月22日、白馬村、小谷地域を管轄する北アルプス広域消防署には、午後10時半ぐらいに最初の電話が入った。内容は、被災中心地から離れた八峰根のロッジで、倒れてきたスキーで手を切ったという軽傷だった。その後、11時ぐらいに被害が最も大きかった白馬村の神城地区から住民が下敷きになっているとの救助要請が入り、救急車が出動。現地に到着すると、地元住民が下敷きになっている現場へ案内してくれ、救出活動にあたった。救出した被災者は、20キロほど離れた大町市内の病院に搬送。代わりに応援の救急車が広域消防本部から駆けつけ、もう1人を救出。公設消防での救出はこの2件だけだ。

北アルプス広域消防署には、常時緊急出動できる車両が2台しかなく、職員はわずか8人体制。毎日、1人が非番になるため、実質動けるのは7人。1台の救急車あるいは消防車に3人が乗って出動すれば、1人しか残らない。これで、約447平方キロメートル、人口約1万2000人の地域を管轄するわけだから、手の回しようがない。

驚くことに、白馬に次いで被害が大きかった小谷村からは救助要請も入っていないという。小谷村では、家屋の全壊などが比較的に少なかったこともあるが、被災直後から地元消防団が見回りを開始し、危険家屋の住民を避難所に移すなどの活動にあたった。もともと、1軒1軒が離れポツリポツリと建つ山間部では、近所を見回るだけでも限界がある。その意味では、消防団の活動が公助の限界を助ける上では今後も期待されることは間違いない。

被災者が加害者になる

問題は、公設消防に限界があるとはいえ、住民が危険な地域で救出活動にあたることが、十分な検証がないまま「美談」とされてしまうことだ。現地には、1階がつぶれ、2階が中ぶらりんになった建物もある。ちょっとした作業で、建物全体のバランスが崩れ、二次災害に発展することは十分考えられる。

今後の対策として求められることは、当然のことながら、住民による救出活動の負荷をなるべく減らすために、耐震化や家具の転倒防止について、一層推進していく必要があるということ。特に1人暮らしの高齢者などは、費用のかかる耐震化への理解を得ることは難しい。しかし、仮に被災してしまった時に、救出にあたってくれる近所の方までも危険な目にあわせるかもしれないということを認識してもらえば、多少なりとも耐震化への動機付けにはなるかもしれない。支援者側だけでなく、要支援者の防災教育が求められる。

一方で、救出する側にもルールが必要だ。勇猛果敢に被災家屋から被災者を助けることは、結果が無事ならば、それほどありがたいことはないが、もし自らが被災すれば、自分を助けようと、さらに多くの人が被災する危険性もある。

例えば、見回りに行く時には必ず2人以上で回る、危険性の判断を十分に行った上で自らの安全性が確保できれば救助にあたる、そうでなければ公設消防の到着を待つ、救出後の搬送先を決めておくなど、あらかじめ対応の心得を持っておくことも重要ではないか。