鬼怒川氾濫(常総市の3分の1が水没)

大河・鬼怒川

今年も洪水の季節を迎えた。私は洪水問題を考える時、東大名誉教授高橋裕氏の名著「洪水論」の一節を思い出すことを常とする。

「水害対策といっても何を防ぐかを明確にしておく必要がある。というのは、我が国の現状からみて、突如いかに予算に恵まれたからといって水害を根絶することは非常に困難と思われるからである。当然そこで重点主義を採用すべきである。それはまず人命と財産を制度上もすなわち責任上も明確に分離することである。そして人命を救うことに水害対策の最重点を向けるべきである」。

平成27年(2015)9月、関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊し、茨城県常総市は市域の3分の1が濁流に没した。各地で計画高水位を超え流下能力を上回る激流となった。7カ所で溢水し、常総市三坂町で堤防が決壊した。浸水域は常総市役所本庁舎にまで広がり、同市の大半の田畑が泥沼に水没して豊かに実った水稲は廃棄処分された。 その間、被災者から必死の救助要請が消防署に殺到した。市民の逃げ遅れが続出し、ヘリやボートなどで計4258人が救出される異常事態となった。災害時における逃げ遅れ問題が大きくクローズアップされた。国土交通省はハードとソフトの両面から水害の減災を図る計画である。大惨事から4年が過ぎようとしている。決壊堤防の修復をはじめ下流の堤防強化工事は既に終了している。

一級河川鬼怒川は、栃木県北西部の標高1500メートルを越える日本一の高層湿原・鬼怒沼湿原に源を発し県東部を貫流する。栃木県との県境に近い茨城県西部の田園地帯を小貝(こかい)川と平行して南に流下し、守谷市で利根川と合流する。流域面積は1760.6平方キロ、幹川流路延長176.7キロで、利根川支川の中で最長の河川であり、関東地方東部を代表する大河のひとつである。上流の栃木県内で川幅が極端に広く、下流の茨城県に入ると川幅が極端に狭くなるという特異な流路となっている。鬼怒川は「鬼の怒る川」の名の通り、昭和初期までは洪水の歴史そのものの「暴れ川」だった。その恐ろしさは水源地の日光山岳部に降った大雨による激流が、わずか1日で鬼怒川を下り利根川に流れ込むという異例な速さにあった。