町をつないだ1枚の地図

加賀吉崎、越前吉崎の両方が納得し、具体的な取り組みを開始しようとした矢先、新しい問題が発生した。県境をまたぐ正確な地図がないのだ。

澤田氏は、「どちらの町にお願いしても、自分の町の地図しか出てこない。町を一歩離れると、構造物が記載されていない曖昧な地図しか持っていなかった」と話す。澤田氏は国土地理院が出している基盤地図情報をもとに、これまであいまいだった双方の地図を重ね合わせ、1枚の地図を作成した。建築・環境デザイン学科で教えているため、地図の作成は得意分野だったという。竹本氏も「行政が用意する地図では役に立たなかった。澤田先生が地図を作ってくれなかったら、今回の話は難しかった」と話す。

2015年3月には、双方集まって澤田氏が作成した地図を利用したDIG(災害図上訓練)を開催した。吉崎地区の3分の2は福井県に属するため、図上訓練を始めてみると福井県側から「福井地震の時はここが倒れた」「福井県吉崎町史には被害状況が罹れている」「ここは地盤が悪い」など活発な意見が出されたという。議論の末、県境を超えたハザードマップが完成したが、「まだまだ取り組みは始まったばかり。今年中に、このハザードマップを生かした合同避難訓練を実現したい」(竹本氏)。

「県境の館」開設。防災とともに地域の活性化を

今年4月、県境をまたいだ施設「県境の館」が石川県加賀市、福井県あわら市の出資によって開設した。福井県の吉崎御坊から歩いて3分ほどの立地で、入り口には県境がひと目で分かるデザインを施し、目の前には石川県の国指定天然記念物の鹿島の森が広がる。館内では両県の観光案内を提供するほか、越前加賀の一向一揆や吉崎御坊の歴史、周辺に生息する生き物などを紹介している。石川県側で吉崎町区長会長を務めて防災にも尽力し、「県境の館」の会館にも携わった桶田和芳氏は、「県が違っても吉崎はもともと1つの町で、津波対策に県境はない。県境の館を活用してこれまで以上にお互いが連携することで、防災や経済活性化につなげていきたい」と話している。今後は、県境をまたいだ綱引き大会なども予定されている。

 

(了)