休憩を回し、生活を維持する

緊急事態に対応要員が休憩していると「こんな時に休んでいるやつがいるか」という声が上がることがあるが、間違いである。人間は疲労すると判断能力が鈍るし、悪い内容の報告に対して感情を抑制することが難しくなる。そして、悪い内容の報告を行った従業員に厳しく当たると、悪い内容の報告が迅速に上がってくることは期待できなくなる。休憩を取り、生活を維持することは、緊急事態対応要員の疲労を回復し、対応能力を一定水準に留めるうえで重要である。

米国の公的機関では、緊急事態対応中にはチームを3つに分け、それぞれ8時間ずつ対応に対し責任を持つ時間を切り分けることが制度化されている。日本企業においても、対策本部に泊まり込みの状態となった場合は、対応要員それぞれに最低でも1日6時間以上の休息時間(勤務と勤務の間の時間)を確保することが望ましい。

2013年2月14日、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター(現在は国立研究開発法人)が発表した内容によれば、5日間睡眠時間を約4時間に制限すると、脳で不安をつかさどる部分の活動が高まるため、不安と混乱が有意に強まり、また抑うつが強まる傾向がみられるとのことである。このような心理状態が緊急事態対応に望ましくないことは明らかだろう。

時間を区切って目標を決める

どこから手を付けていいかわからないという思いは、焦りを産む。そして焦りが問題解決に資することはない。よい結果がなかなか出ない状況は、緊急事態対応要員の「この組織で何とかすることができるという思い」(チーム効力感)を損なうことになる。このようなモチベーションの低下は、当然業務に影響を生じる。

緊急事態対応においても、問題の解決に重要なのは、大きな問題を小分けにして、毎日、何らかの進捗があったことを可視化することである。

例えば、朝「安否確認が取れません」という報告を受けたとする。ここで「引き続き安否確認に全力を尽くしてくれ」ではなく、「現在7割の安否応答率を今日の夕方までに9割までに持っていこう。そのために必要な行動を考えてくれ。夕方の会議でまた状況を報告してほしい」と指示することができれば、対応要員も意味のない焦燥感にとらわれるのをやめて、問題の解決に意識を移すことができるようになる。

現場委任は予算と一緒に

緊急事態への対応にあたっては、なるべく早く現場に近いところに幹部を送り込み、変化への判断と対応を委ねることが望ましい対応と言える。緊急事態において、状況は刻一刻と変化するものであり、その変化への対応にいちいち本社なり対策本部なりの判断を求めていては迅速な対応はできない。ただ、そこに予算と権限が伴わないと意味がない。

緊急事態は現場委任と言いながら、金の問題については「10万円以上の臨時支出は、支社長が稟議を起案し、総務、経理、企画の各部長との事前協議の上、支社を所管する役員が決裁する」というような平時の手順をそのまま運用しようとする事例がみられる。これは適切な対応とはいえない。

このような事態を避けるため、緊急事態に対する対応については、対策本部長に判断権限を集約することを決めている会社も少なくない。ただ、権限の集約にも副作用があり、本来なら各部門で判断していたような事柄についても対策本部長まで持ち込まれてしまう事例がみられる。

このような事態を避けるためには、「対策本部長は、現地対策本部長に必要な予算を与える。現地対策本部長は、対策本部長からの委任の範囲で支出を決定する権限を有する。この決定を行った場合、権限規定及び経理規定に定められた支出判断決定手順は実施されたものとみなす」というような規定を作り、運用することが有効である。

現場への委任といっても、現場への丸投げとは異なる。一定期間内に達成するべき目標を明確にし、そのために動員できる資源を示し、具体的な行動は委ねる。一定期間経過後には、状況報告を求め、目標の再設定と動員資源の再検討を行う。これが現場委任である。

(了)