結核菌に代表される抗酸菌群には100を超える種類がありますが、今回は、非定型的抗酸菌と呼ばれる菌種の中から特にエイズ患者など免疫力の低下した人に高い確率で危害を与えるミコバクテリウム・アビウム・コンプレックス(MAC)菌について説明します。実際、MACは、エイズ患者から特に高率に分離されます。
豚の被害と人への感染経路
MACは各種動物、特に豚や鳥類に病原性を示し、豚のMAC感染症による被害は、日本、オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカなど世界の畜産界で広く発生しています。
MACに感染した豚は、飼育中に糞(ふん)とともに排菌します。そのMAC感染豚が直接人への感染源になっていることは早くから疑われてきましたが、未だ直接的な証明はされていません。豚や豚肉などの生産物、または環境から人がMACに感染しても、ほとんどの場合は発病せず、発症するためには、MACに感染した人が、何らかの原因で、免疫力機能が低下しているなどの特別な状況に陥っている必要があると考えられます。
人に感染する経路はよく分かっていませんが、浴室や土を扱う作業中に、空気中を漂う菌を吸い込むことにより感染する可能性がむしろ高いのではないかと考えられています。しかし、人に感染しているMACが、それらの地域で生息しているさまざまな家畜を含む各種動物や環境から分離されるMACとどのような関連性を持つのかについても、積極的に調べられなければなりません。この点に関し、ある地域の環境や動物から分離されるMACは、その地域で人から分離されるMACとほぼ同じ遺伝子学的な特徴を持っていることが分かってはいます。
いずれにしても、多くのMAC感染例では、数年から10年以上かけてゆっくり病勢が進むため、解析には多大な困難が伴うと考えられます。
鳥類、犬、猫、牛、ヤギなどでも感染
豚以外の動物では、MAC感染による鳥型結核が問題となっています。鳥型結核に罹患(りかん)した鳥類では、腸管に潰瘍を形成し、やせ細り、骨や関節が変形し、多くの場合、腸、肝臓、脾臓に結核様結節を認めます。皮膚に結核様結節の形成される例も知られています。アメリカやイギリスでは、動物園で飼育されている鳥や死亡した野鳥を解剖して調べたところ、その10%弱にMAC感染症の所見が認められたという報告があります。欧米では、日本と異なり、鳥型結核は、動物園で展示されている鳥類や野鳥に通常見られる疾病とみなされているようです。
日本では、豚以外の動物での非定型的抗酸菌症発生の報告数は、欧米に比べ少ないのですが、鳥類、犬、猫、牛、ヤギなどでのMAC感染症の報告があります。鳥類の発生報告では、わずかに、動物園飼育鳥と輸入レース用ハトでのみ確認されただけです。野鳥での感染報告はありません。日本は鳥型結核の極めて少ない特殊な地域のようです。
一方、乳用牛では、結核菌あるいはMACに感染した乳用牛に、無病巣反応牛と呼ばれる、ツベルクリン反応が陽性ではあるが結核病変の形成されていない牛が、と畜場の検査で見つかり、食肉衛生上問題になった事例が過去にありました。
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