2019/06/14
危機管理の神髄
ようこそ、果ての国へ
ブラックスワンでタレブは月並みの国と果ての国という二つの想像上の世界を描いている。
月並みの国は普通の人が住み、普通なことが起きる世界である。月並みの国では物事は予想が可能であり、期待することができる。インパクトの小さい災害が起こりやすく、大きなインパクトのある巨大災害は非常に稀(まれ)である。
それに対して、果ての国では不公平が支配し予期しないことが起きる。果ての国では、何事も正確に予想するのが難しく、起きそうにないことあるいは不可能と思われることが頻発し、巨大なインパクトをもたらす。
ニューヨークでは、われわれの月並みの国の災害に対するアプローチは9.11後の世界の、果ての国の現実の中で雲散霧消した。
国民を分断した選挙に続いて、武力衝突と核戦争の脅威がかつてなく高まっている今この時、われわれの運命はわれわれに衝撃の一打を振り下ろそうとしている女神の手の中にある。
リスクはここにある。静電気のように大気中に感じられる。月並みの国は歴史である。紳士淑女諸君、われわれは果ての国にいるのだ。
この全てはあなたにとって何を意味するのか
今ではあなたは「この全ては私にとって何を意味するのか」と自問しているかもしれない。実際、多くのことを意味するのである。はじめに、あなた自身の希望のれんが壁の後ろからのぞいてみる、そして多数の多様な災害、大小さまざまな、そしてあなたに影響する特大の災害のことを一分でも考えてみる、というアイデアがある。あるいはあなたの家族、隣人、あなたの都市(もしくは巨大都市)、あなたの州、あなたの国に影響を及ぼす災害である。
なぜならばいつの日か、あなたはそれらの災害の一つの真っただ中にいる自分を見るだろうからである。それがあなたにとっての真実のときである。洞察という贈物(あなたの過ち、あなたの選択肢を増やし、あなたの命を救ったかもしれない行動への洞察)とともにやってくる悲痛のときである。
あなた自身と家族のための行動の責任はあなた自身のものであるが、他の人にもまた責任がある。他の人、災害専門家は多くの自信を演出するが、彼らもかなりの程度に不安だからである。
災害専門家も真実のときを心配している。ブラックスワンに初めてのみ込まれるときの悲痛のときである。他の誰もがそうであるようにブラックスワンに圧倒されていると悟るときである。やることが多すぎるし、時間がなさすぎる。何日間も援助を待っている人がいる。暖房のない家に閉じ込められている弱く年老いた人、生存に必要な装置の電源を奪われた動けない人がいる。
「ちょっと待て」と思っているかもしれない。「自分のことで手一杯なのになぜ他人のことまで心配しなければならないのか」と。
ブラックスワンが来るとき、援助を必要とするのは、あなた、あなたの家族、あなたの友人、あなたの隣人かもしれない。その援助は全国の全ての災害専門家が一丸となって駆け付けてくるときにのみ得られるものである。その種の援助は国中の災害専門家が、今その準備のために集結することによってはじめて可能となるものである。
この世界で最も豊かで強力な国において、問題であったのは資源ではない。われわれは巨大な資源、信じられないテクノロジーのツール、大勢の賢明な人たちを持っている。ただ一つの問題は自己満足である。われわれが次なるブラックスワンに備えるのを妨げる自己満足は誰もが持つ問題である。
(続く)
翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方