2016/05/24
誌面情報 vol55
住まいの復興に必要な知識
つまり、修理に使える公的に支給されるお金は、全壊だと約250万円、新築で300万円。これで全て直しきれるかというと被災の状況にもよるが、なかなか難しい。新築にはもちろん足りない。しかし例え何分の1であっても、異口同音に被災者は助かったという。平時の補助制度と違い、対象になる方が、制度が理解できても理解できなくても、等しく全員が活用できることが地域の復興となる。地域で分かる方は、分からない方に伝えるように、そして地域内外の支援者や行政も、同様に伝える努力をしてほしい。ネットが使える方は未だ限られている。行政は分かりやすい紙資料を作成してほしい。そうすれば、周りの分かる者が、分からない方に伝えることが容易になる。
熊本のすまい復興は4パターン
ここまで書いて、5月の連休は熊本に出かけた。被災現場を見ると、すまいの復興に関してはおよそ次の4つのパターンになりそうである。
1) 家屋のみの損壊(かなり多い)→資力のある方は自力再建(無い方は、り災者公営住宅、建設計画は現段階では未定)
2) 家屋+敷地の損壊(益城町など)→町内全体の地盤復旧が必要で個人の資力だけでは難しい。別の公的支援が必要
3) 家屋+山の斜面+道路の損壊(南阿蘇町立野地区など)→個人では判断できない。国県の復旧計画次第。
4) マンション被災(熊本市内)→被災状況の正確な判断(RC造に詳しい建築士の診断)。管理組合の合意が必要
1)については既存の公的支援制度は大きな助けになるが、2)3)はそれだけでは住宅の再建には取りかかれない。益城町のしばしば報道される地区は、面的にほとんどの建物が倒壊している。面的なのは、地方の地震災害ではむしろ珍しい。住宅だけでなく地盤災害であることは素人目にも明らか。地域住民と行政が一緒になって復旧のために既存の復旧事業の活用も含めて、知恵を絞る必要があろう。
4)のマンション被災は、中越・能登半島・中越沖地震では該当する建物はなかった。東日本大震災の仙台市で似た事例がある。マンション被災の場合、建物の構造に被害があるのか、そうでない雑壁であるのか、玄関ドアが歪んで出入りできないだけなのか、住民には分かり難い。専門家の調査で被害状況を正確に把握すれば、十分修理可能だと分かる物件も多いであろう。管理組合の合意が必要なので、修理を始めるにも時間がかかると思われるが、慌てずにまずは被害状況の把握に努めてほしい。マンションの共用部にも、東日本大震災以降、「応急修理制度」が使えるようになった。この制度も活用してほしい。
保険加入を
以上のように、熊本地震では、マンション被災から、宅地被害を含む住宅損壊、住宅のみの損壊、道路の損壊、といった都市型から山間部型に至る、様々なすまいの損壊と復旧へのパターンが見える。そのどれかが被災地外の方々のすまいが被災した場合にも当てはまる。他人事と思わず、自らが地震で被災したらどうなるか、どのようにしたらすまいを取り戻せるのか、メディアの報道や被災地からの発信に耳を傾けながら、考えてほしい。そして、報道は急激に減り風化し始めているが、被災地のすまいの復興はこれからであることを忘れないでほしい。
なお、本稿では地震保険にはほとんど触れなかった。自助としての地震保険やJA建更もそれだけで新築するには足りないが、公的支援と合わせると大きな力となる。大して保険金が出ないから、と言う方にもよく会うが、その「大して」が非常時には大きな額である。これを機に未加入の方は加入してほしい。マンションに関しては、専有部は個人だが、共用部について管理組合で加入しているかどうか必ず確かめてほしい。地震だけでなく、水災に関しても同様に共用部の保険加入の有無の確認が必要である。
なお、災害からのすまいの復旧・復興に関する情報は「地震災害居住支援タスクフォース」(http://tf.qee.jp/)で発信している。
木村悟隆(きむら・のりたか)
長岡技術科学大学大学院生物機能工学専攻准教授
専門は化学(高分子材料)、いわゆるプラスチックだが、2004 年の新潟県中越地震から、仮設住宅の居住性の調査や、被災者支援にも関わっている。著書に「地震被災建物修復の道しるべ」(共著)など。
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