我々は何度も同じ問題に直面した。受け身の抵抗、曖昧さ、そして無視である。我々は人が何を言うか、それをいつ言うかが分かるまでになった。奇妙に思うかもしれないが、この現象を説明するために想像上の友人を作ることにした。その名はブルースである。
ブルースはマニアである。マニアというのは熱狂者の意味であり、緊急事態対応の世界を好み、災害の中にいることを心地よいと思う人間のことである。ブルースは身長180センチ、粋なロゴが刺しゅうされたポロシャツの下に目立つ太鼓腹を自慢げに見せている。日に焼けた大きな顔にはしかめ面と巨大な灰色の口ひげがある。首には一握りの光るカードを吊るしたラニヤード(首ひも)をかけている。
ファーストレスポンダー(第一対応者)だったことがあるので、経験が豊富である。大混乱になったときは現場でそばにいてほしい人物である。危急のときには、鉄の扉も、官僚的な形式主義も、何も彼の人命救助を止めるものはない。
社交的である。よく笑い、冗談も多いが、同時にこだわることもある。例えば以下のようなことである。
自信がある:多くの仕事(災害対応)をしてきたので鋭敏な本能が身に付いている。判断をするときには、その本能に頼るが、彼にとってはそれが良い結果となっている。何が起きるか、起きたときに何をするかを知っている。
ありがたいのは今現在、彼の直感によれば問題はないということである。この地上に、何の差し迫った、避けがたい災害の兆候もないとのことである。
後知恵が完璧である:全ての災害の後、何らかの時点で、この災害は来ると分かっていたと自分を納得させる。災害につながった好ましくないことのほとんどについて、申し分のない説明をする。
予測可能性を好みばらつきを嫌悪する:大方の人と同様に、ばらつきのある不規則な雑音を貴重なデータだと解釈する。新情報を改良して将来の予測にする。災害は不規則であり計画外のものであるが、明白な歴史の進行に一致するものであると考える。
新しいものを認識するのが遅い:我々と一緒に9.11の時代を生きてきたわけであるが、ブラックスワンを信じない。ターレブが言う「ベル型のカーブのパラメータの中」で思考し、大きな乖離(かいり)を無視する。だからブラックスワンが来ると驚き、そのインパクトが極端であることにショックを受ける。しかしそれはそれでよい。なぜならば事後的に作り上げる説明によって最後は再び予測可能なものとなるからである。
複雑なことが嫌いである:自分が何を知っているか、それはそれだということを知っているシンプルな人間である。新しいアイデアはあまり好きではない。アイデアということでブルースが思い起こすのは、現実のことは何もしないでサロンに座ってフレンチ・シガレットをふかしながら過ごす柔弱な哲学者である。その上アイデアは抽象的すぎるし、考えなければならないことが多すぎる。
ストーリーが好きである:アイデアは敬遠し、その代わりストーリー、中でも苦労話をよくする。苦労話というのは、災害においては一般に忘れることのできない個人的な経験である。ブルースは苦労話を、複雑性をブロックするのに利用し、議論が複雑になりそうな兆しがあると、そして思考の回路が頭の中で回転を始めるや否やそれを持ち出す。実際に彼が経験したものもあるが、単なる伝聞であることも少なくない。
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