2019/05/31
危機管理の神髄

9.11後のニューヨーク市でOEMが格闘したブルースの偏見の中でも最も恐るべき敵だったのは、ストーリーである。ストーリーはアイデアを聞き手が受け入れやすい形で伝えることができるので学ばせるのには好適である。だがストーリーは危険でもある。小さな満足感を与えてしまうからだ。全く理解していないのに分かったと思わせてしまうのである。
悪いストーリーは頭の中の岩である。硬くて動かすことができず、思考のために必要なスペースを占拠している。この本の使命は悪いストーリーとはどんなものかを述べ、神話として追いやることである。同時にそれらに代わるものとして良いストーリーでいっぱいにしなければならない。
悪いストーリー、災害ビジネスにおいては最もひどい神話から始めよう。地域社会全体の神話である。
地域社会全体の神話
このよくあるストーリーでは、自然災害・テロ行為・パンデミックなどの災害に備えるのは政府の責任ではない。地域社会全体の神話では、個人、家族、企業、社会奉仕団体、地域活動団体、非営利グループ、学校など、全ての者がレジリエントな国を作るために、手と手を携えて協力している。あまりに聞こえが良すぎて本当ではないのではないか、実際そうなのである。
今日、個人、家族、企業、社会奉仕団体、地域活動団体、非営利グループ、学校は多くの問題を抱えている。宿命論・反抗的な態度・コスト・筋違いの自信・自己満足・信頼・古き良き先送りなどの問題が準備の真の前進を妨げている。
全ての神話と同様に、地域社会全体の神話には一粒の真実がある。大勢の人が災害の準備に汗を流しているということだ。集合体のレジリエンスを高めるために、あらゆる場所で、組織化された方法で、それが同時に行われているという考えは虚構である。誰もが何かをしているというのは、誰も何もしていないというのに等しい昔ながらの混乱した考えである。
地域社会全体というのは災害専門家が作り上げたストーリーである。それがあるという人がいるのは、責任を回避することができるからである。国の災害対応準備をリードするのは自分たちの責任というよりは、それはあなた方の責任だと言い返す方がずっとたやすいことである。
七面鳥のストーリー
悪いストーリーにとって代われるのは良いストーリーだけなので、良いストーリーは貴重である。良いストーリーの例は、ターレブの七面鳥のストーリーである。
一回一回の餌のたびに、七面鳥のことを思う人類の友人から毎日餌が与えられるのは一生の決まりなのだという信念が固められる。勤労感謝の前日、水曜日の午後、彼らに予期しないことが起きる。それは彼らの信念を覆すことになる」。
これは、いい話があるから良いストーリーなのではない。それは我々に極めて重要な教訓を与えてくれるから良いストーリーなのである。過去に起きたことはこれから起きることとは無関係である。七面鳥の信念は餌の回数が増すごとに強まり、目前に迫った屠殺(とさつ)が近づくにつれてますます安全だと感じる。
七面鳥が翌日まで生き延びるとすれば、それは不死であるか、死の一日前であるかのどちらかである。もし我々が明日まで生存するとすれば、我々の重要なインフラが絶対確実なものであり社会安全システムが不可侵なものであるか、大災害に一歩近づいているかのどちらかである。
いずれの結論も同じデータから導かれたものである。
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方