3.サーマルカメラ使用の注意事項
・カメラのスクリーンばかりに集中して屋内進入していくとスクリーンの範囲外の火災状況に気づかなかったり、進入してきた退出ルートがわからなくなる場合がある。
・サーマルカメラ使用時は、常に(1)目視、(2)サーマルカメラによる検知、(3)活動判断を繰り返す。理由は、目視、五感(要救助者の声や音、寝室など逃げ遅れた部屋の判断等)も同時に使うことで、サーマルカメラの熱情報感知以外の危険情報や要救助者の位置情報を知る手がかりに繋がる。
・塩素ガスや苛性ソーダなど、化学薬品などには直接、接触させないこと。
・ガラスや水面に向かって、直角方向に向けると赤外線が反射して自分が写ってしまうことがある。
など

4.FirePro使用上の注意事項
・FireProのようにスマホ画面を見る姿勢(下向き)に見るタイプのサーマルカメラは、モニターを見るために下を向き、熱感知する対象物を見るための目視を繰り返す際に、慣れるまでモニターと目視地点の整合性が合わなくなる可能性がある。また、歩きスマホのように画像に意識しすぎて、他の活動判断や予測を忘れてしまう。

普段から、庁舎内でも隊員の温度と倒れ方による画像の形状や見え方(全体と部分)、消防車のエンジンの温度、ボイラーや湯の配管温度など、様々な物体の温度やサーマルカメラのスクリーンに映し出される形状を見て、画像判断訓練をすることで、さらに現場活動を合理的に行うことができる。

5.活動の合理化
火災防御活動を意思決定するために予測するには、現場到着後、落ち着いて、時間を取って(長くても1分程度)サイズアップによる活動手順の判断をすることが求められる。

サイズアップについては下記を参照:
火災は科学で防御する
トランジショナルアタック(先制防御)について
https://www.risktaisaku.com/articles/-/12120

本当に効果的な火災防御訓練とは?
極意はシナリオ作りとゴール設定にあった
https://www.risktaisaku.com/articles/-/13135

最初のサイズアップを確実に行えば、結果的に安全・迅速でより効果的な消火を行うことができるため、救助と消火の時間を十分に作ることができる。

何よりも先着隊は、現場到着後すぐにサーマルカメラを使って、まず火点を屋外からいち早く発見し特定することを初動の優先活動の一つに入れること。

延焼が既に拡大してしまっていて、火災建物が全体的に熱くなってしまうと、サーマルカメラで温度差を検出することは、ほとんど不可能に近い。基本の前提は、先着隊は火点も分からないまま急いで消火活動を開始するのではなく、まず、十分にサイズアップを行った上で、活動方針を決める時間をきちんと作るということである。

繰り返すが、閉鎖されている建物の火災は急速には拡がらない。救助が必要な場合でさえ、より効果的でより安全な防御を容易にするため、現場到着時はもちろん、現場活動中もサーマルカメラを使った状況把握と確認の時間をとることが最善の消防活動につながる。

国内外の自然災害、特に今年も多発すると予想されている水害救助に出動する緊急消防援助隊の装備品としても、救命率の高い急性期の夜間にも使えるため、ぜひ、日本国内の消防本部でも様々な現場で活用して欲しいと思う。

※追記
この記事について、下記の消防関係者他6名から情報提供いただきました。
沖縄県 中井健太朗様
岩手県花巻市消防本部 藤田廉太郎様
ご協力ありがとうございました。

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
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