事業継続上の対応

印刷業は、外部取引先に自社の製造プロセスの一部を日常的に依頼しているため、事業継続に向けた選択肢の幅が大きい。製造業であれば、通常第一選択肢となることが多い自社施設の早期復旧に加えて、他社への発注により印刷を完了して、納品する選択肢も成り立つことが多いからである。この点を踏まえ、被害状況を早急に確認しなければならない先は表4としてとりまとめた。

組合の活用が今後のカギに
たとえ被災への対応のためといっても、同業他社への発注は、その後の受注を取られるのではないかという警戒心を呼び起こすのは自然なことだと考える。 

このような事態を避けるためには、日頃からの外注先による代替対応が第一選択となるが、日頃の外注先による対応が困難な場合に備えて、組合の活用も一つの方策である。 印刷業では、各都道府県に印刷工業組合が設置されている。過去の災害事例を確認すると、一つの都道府県に立地するすべての事業者が業務を中断した事例は非常に珍しく、印刷が継続できる事業者において代替することは一定可能である。この仕事のやり取りを印刷工業組合を通じた形で行うのがポイントである。 

工業組合でも印刷会社の業態ごとに各社の安否を速やかに確認し、必要に応じて状況を共有する仕組みを取り入れる事例がみられる。特に、中小の印刷事業者であれば、自社の事業継続計画の中に、緊急時の工業組合への安否報告を取り入れ、緊急時には組合を経由して仕事をやり取りするのは優れた対応の仕組みといえるだろう。組合の取り決めとして、平常時に復帰した場合は、仕事を戻すこともあわせて約束しておく。もちろん最終的には発注者が決めることではあるが、発注者が発注先を変える一番の理由は、供給の途絶である。供給さえ継続できれば、発注者が発注先を変える動機は働きにくいと考える。 

なお、工業組合が災害時に供給調整に関して協議することは、事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針に触れるのではないかとの声もあったが、公正取引委員会では、東日本大震災をきっかけに、災害時の需給調整活動は、それが災害に対する応急対応として社会的に必要な範囲であれば、独占禁止法に触れないとの整理を行っている(震災等緊急時における取組に係る想定事例集(平成24年3月))。

(了)

(注1)http://www.komori.co.jp/hp/company/note_110622.htm
印刷業の事業継続を考えるうえで、非常に参考になるホームページであり、一読をお勧めする。