北上川を救え!大河はよみがえった
松尾鉱山からの「毒水」、永遠のツケ

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2019/02/04
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
やわらかに 柳あおめる 北上の 岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに
天才歌人石川啄木の短歌である。北上川は、今日鮭が遡上し白鳥が飛来する東北地方が誇る最大の清流である。この大河が戦前から戦後にかけてほぼ半世紀もの間、松尾鉱山から流出する強酸性廃水によって、死に瀕していたことを知る人は意外に少ない(旧制中学生時代の啄木は、明治35年こと1902年に足尾銅山鉱毒事件の惨状を嘆いて短歌を読んでいる。夕川は 葦は枯れたり 血にまどう 民の叫びの など悲しきや)。
本年(2019)は、松尾鉱山(株)が会社更生法申請して倒産し、従業員全員の解雇か行われた昭和44年(1969)からちょうど50年・半世紀である。鉱山権が放棄され倒産して完全閉山となってから47年が経過している。倒産することで鉱山から排出する大量の酸性水を処理する責任者がいなくなった。曲折を経て当時の建設省(以下省庁名はすべて当時)による暫定中和処理から新中和処理施設建設に向かっていくことになるのである。
私は昨年(2018)11月末、同鉱山の現状や歴史に詳しい知人のK氏の案内で現地を訪ねた。初雪が降りつける松尾鉱山跡地(旧岩手県松尾村、現八幡平市松尾)は、廃墟となったアパート群などが不気味に立ち並び<ゴーストタウン>さながらで、わびしさと寒さが募るばかりであった。だが硫酸ガスで巨大な禿山となり何十年かかっても植物は再生しないだろうとまで言われた荒涼とした廃墟跡は、草だけでなく木々も茂っていた。遠くに雪を冠した岩手山が雪雲の上にほんの少しだけ見えた。
◇
「松尾の鉱山(やま)」(八幡平市教育委員会刊)の「序に代えて」(山口太郎氏)から引用する。
「交通公社・昭和39年(1964)の(観光)案内によれば『八幡平国立公園の東の入り口に松尾鉱山がある。明治35年(1902)発見された硫黄鉱山で生産量は日本一。鉱山鉄道の終点で降り樹海をバスで上ること30分。突然近代的なコンクリート住宅群が並ぶ元山地区(現緑が丘)に出る。一望全部鉱山の施設ですべて活気に溢れている。人口は1万5000人、近代都市としての設備、と聞いてびっくりする』となっていた。(隆盛を極めたのである)。降って昭和48年(1973)のそれには『八幡平国立公園の盛岡からの入口には松尾鉱山があった。昭和44年(1969)11月閉山以来無人となり赤さびた鉄塔や捨てられた廃屋がいやでも眼に入り鬼気迫るものがある』と近代都市(<雲上の楽園>)に驚いた観光客は、今度は廃墟(<運用の失楽園>)に眼を見張る」
松尾鉱山は、岩手県八幡平の中腹、海抜740~1030mに位置する東洋最大の硫黄鉱山だった。ここに鉱毒問題が発生する。鉱山操業が本格化した昭和8年(1933)頃から、松尾鉱山から排出する強酸性水による水質汚染が顕在化した。「柳あおめる」北上は赤茶色に濁り死の川となった。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
防災教育を劇的に変える5つのポイント教え方には法則がある!
緊急時に的確な判断と行動を可能にするため、不可欠なのが教育と研修だ。リスクマネジメントやBCMに関連する基本的な知識やスキル習得のために、一般的な授業形式からグループ討議、シミュレーション訓練など多種多様な方法が導入されている。しかし、本当に効果的な「学び」はどのように組み立てるべきなのか。教育工学を専門とする東北学院大学教授の稲垣忠氏に聞いた。
2025/04/10
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方