これまで紹介した首長及び課長級職員が全員死亡という被害に加え、大槌町は、地震動と津波により庁舎が大きく被災し、住民基本台帳及び戸籍関係資料を喪失する被害を被った。我が国において、自治体庁舎の災害による被災は、1959年の伊勢湾台風以来の緊急事態である。このような苦境においても、まず水と食料の確保のため、職員は奔走した。表2では報道資料等から大槌町の置かれた状況を取りまとめた。 

表2に示した通り、地域応急対応期においては、通常行われている行政サービスの再開が急務になった。一例として戸籍業務を取り上げる。亡くなられた方を火葬する場合、通常は遺族が医師から死亡診断書を受領し、これを死亡届とともに市区町村に提出する。市区町村は、死亡届、死亡診断書の情報に加え、本籍地の市区町村に対し、戸籍情報を照会する等の対応を行った上で、埋火葬許可証等を発行する。東日本大震災の被災を受けた地域の多くでは、このような対応は困難であった。しかし、埋火葬許可証なくして、ご遺体の火葬や安置は行うことができない。 

厚生労働省は、平成23年3月14日付健康局生活衛生課長通知により、阪神・淡路大震災の際の特例措置を参考に、市区町村による通常の確認作業を一定省略する形で特例許可証を発行し、この許可証に基づく火葬を行うことを容認した。しかし、特例許可証の発行のためには、死亡届の受理が必要であり、死亡届を受理するためには、死亡届本紙、受領印等が必要になる。少なくない自治体では、庁舎被災により、このどれもが失われた。 

行政能力の回復に向けた大槌町役場の対応を表3として整理した。町議会議員の活動など着目すべき点は数多くあるが、ここでは、住民基本台帳システムのバックアップの重要性を取り上げたい。住民基本台帳は、当該自治体に誰が住んでいるかを明らかにするために最も重要な資料であり、これが喪失した場合の損害は計り知れない。筆者の勤務先は、被災者生活再建支援システムとよばれるICT(情報通信技術)の活用により生活再建に向かう被災者を支援する際のボトルネックを解消するシステムの活用と普及に参画しているが、この取り組みも住民基本台帳の存在が大前提である。住民基本台帳のデータバックアップは自治体にとって優先順位の高い課題である。