編集部注:「リスク対策.com」本誌2013年7月25日号(Vol.38)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年7月19日) 

前号では仮想的な会社X社を想定し、そのBCM活動についてさまざまな切り口で評価を行いました。今回は、その評価結果をもとに評価レポートの書き方について説明します。まずは本題に入る前に、「なぜ評価レポートは必要か」について再確認しましょう。

私たちは定期的に健康診断を受けます。その理由は潜在的な健康の不調に気付いたり、成人病の進行を未然に防ぐためです。BCM(事業継続力を養うための活動)も同じで、定期的に活動状況を測定・評価しないと、いつの間にか形骸化してしまって、いざというとき速やかに行動できない恐れがあります。

不測の事態の際に明晰な判断力と決断力、そして強力な結束力を発揮するためにも、BCMの実力を評価し、レポートとして可視化することはきわめて大切なことです。もちろん評価するだけでは意味がありません。好ましくない点があれば、それを正し、軌道修正し、改善して次の活動に反映させる必要があります。

評価レポートの作成にはもう一つ大切な目的があります。それは、社長他、経営層(以下「社長」で統一)に示して理解とサポートを得ることです。一般的に日々の業務活動の中で発生する問題については、とくに深刻なものでない限りそれぞれの業務部門内で解決し、処理するのが普通です。

しかしBCMは組織全体に関わる、あるいは部門横断的な活動ですから、一部の部署で「忙しいのに何でこんなことやらなくちゃいかんのだ?」といった懐疑心や理解不足があったりすれば、緊急時にうまく足並みが揃わない可能性があります。そこで、平時からトップマネジメントの立場で全社にBCMの大切さを示し、必要な活動に参加するよう号令をかけてもらわなくてはならないわけです。

逆の見方をすれば、もし社長自身がBCMに対して理解不足、懐疑的、無関心であったりすれば、全社に号令をかける人はいないばかりか、BCMの活動に必要な予算についても承認が得られない可能性があります。早い話がBCMが社内に根付くかどうかは社長の姿勢一つにかかっていると言っても過言ではないのです。

■ 事前の作業-改善案の下調べ

BCMの評価レポートが社長に提示され、そこそこ「良い結果」が出ていれば社長は安心し、労力と予算を費やしただけの効果が出ていることにも満足するに違いありません。万一の事態が起こっても、組織が一丸となって行動し、事業を存続させる態勢ができている、スタンバイできているということが評価レポートから汲み取れるわけですから。

では、評価レポートに「好ましくない結果」が出たらどうなるのでしょうか。とくにBCM活動初期は、色々と満足できない点や改善すべき点が噴出することが多いものです。事務局担当者が、BCM活動のデータを取りまとめる段階で各部門の問題点や改善を促したい点に気づいたときは、たとえば次のような対応を通じてレポートに反映させるとよいでしょう。

改善点は、すぐに解決できるもの、時間のかかるものがある上、社長のレビューやコメントを通じて別の提案が出て来ることも考えられます。改善点をすべて今後の課題という名目で残しておくこともできますが、まったく方向性が示されないまま結果報告だけを社長に提示することは好ましくありません。上記の手順は、これを避けるための措置です。ただし、この時点での改善意見は暫定的なものでよく、担当部署の問題認識に見合ったレベルの内容で構いません。

■  評価レポートの記載項目と書き方のポイント
次の①~⑥は、評価レポートとして著者が必要と思われる記載項目を中心に述べたものです。箇条書きの例文には前号の評価データを使用しています。各項目を参考に工夫を凝らして作成してみてください(具体的な文例については、評価レポートのサンプル書式を参照のこと)。

①調査の実施データ
この例ではBCM調査の取りまとめを年1回としていますが、BCM活動が軌道に乗るまでは、半年に1回、四半期毎に1回で実施することも可能でしょう。

②評価項目の意義と目的
ここにはBCMの評価項目の意義と目的、つまりBCM活動の望ましい結果を達成するために用いた指標の定義などを書きます。書くためのヒントは連載第2、3回あたりを参考にしてみてください。

③評価結果の詳細前号で紹介した評価データの一覧です。生データそのものは最終ページに添付するものとして、ここでは社長に分かるように表現を少し工夫してください。たとえば、それぞれの評価項目についてはデータから読みとれる感想などを、評価の最後尾には総合所見を書きます。

④改善項目と次回の達成目標改善点については、担当部署の意見とBCM事務局の所見として簡潔に記載します。前に述べたように、この時点で改善策や解決策など結論を急ぐものではないので、社長が参考にしやすいようにたたき台として記載します。次回の達成目標は記載可能なものは目安として書きます。

⑤活動実績ここには、各部門におけるBCM活動の実績データを箇条書きや表形式でまとめます。必要なデータの種類としては、5つの評価指標のうち、リーダーシップを除く{訓練・教育、更新、見直し・改善、点検}について、実施頻度、活動に費やした時間、活動に費やした費用(予算/実績)など、定量的、客観的に捉えられるものを掲げるとよいでしょう。

⑥添付資料評価レポートのもとになった各部門から回収した生データその他を添付します。

最終回の次号では、今回作成した評価レポートをもとに、社長へのBCM活動の報告を行ったあと、社長のレビューとコメント例を参考にして改善のアクションを起こすまでのステップを説明します。

 

<了>