第3回 評価指標と評価レベルの設定
BCP策定/気候リスク管理アドバイザー、 文筆家
昆 正和
昆 正和
企業のBCP策定/気候リスク対応と対策に関するアドバイス、講演・執筆活動に従事。日本リスクコミュニケーション協会理事。著書に『今のままでは命と会社を守れない! あなたが作る等身大のBCP 』(日刊工業新聞社)、『リーダーのためのレジリエンス11の鉄則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『山のリスクセンスを磨く本 遭難の最大の原因はアナタ自身 (ヤマケイ新書)』(山と渓谷社)など全14冊。趣味は登山と読書。・[筆者のnote] https://note.com/b76rmxiicg/・[連絡先] https://ssl.form-mailer.jp/fms/a74afc5f726983 (フォームメーラー)
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編集部注:「リスク対策.com」本誌2013年5月25日号(Vol.37)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年7月5日)
前回は、BCMの実力を測定するために必要な活動要素、つまり「社員一人ひとりが非常時の役割と責任を自覚し、その役割や責任をもとにすばやくアクションを起こせる態勢にどの程度近づいているか」を評価するための要素として、訓練・教育、更新、点検、見直し改善、リーダーシップの5つを取り上げました。
ここから先は、それぞれの活動の達成度をどのように評価し、可視化していくかという話に移っていくわけですが、その前にまず、「PDCAサイクル」との関係を確認しておきましょう。
第1回でも触れましたが、PDCAとは、業務改善サイクルの要として4つの局面、つまりPlan(計画の立案)、Do(実行)、Check(検証)、Act(是正・改善)を意識し、事業継続の文化を段階的に充実(改善・向上・定着)させていくための仕組みです。
ここに掲げた5つの活動要素は、PDCAの中では図表1(太字斜体部分)のように関連づけることができますが、特にこのサイクルを意識しなくても、BCMの実力測定には影響するものではありません。
より明晰で一貫性のある活動項目や評価指標を設定するのであれば、ISO22301の教科書等を参照して設定することをお勧めします。
■評価の範囲を決める
5つの活動要素の達成度や成熟度を評価(測定)するためには、まず評価のスコープ(範囲)を決めなくてはなりません。誰を対象に、どのくらいのスパンで(またはタイミング)で評価するのかといったことです。これらについては次の2点を考えてみましょう。
・評価の期間
・評価の対象者
まず「評価の期間」ですが、一般に会社の事業年度は1年間で捉えるので、BCMの活動も1年間を1サイクルとして考えることにしましょう。ただしこれは、年経ったらま1とめて評価しましょうという意味ではありません。
それぞれの活動は実施頻度や実施間隔が異なりますから、個々の活動が行われるたびに評価・記録しておく必要があります。これは例えば、学校で中間や期末テスト、実技のテストを行うたびにその結果を評価記録することと同じです。
次に「評価の対象者」ですが、これは次のように捉えるものとします。
『訓練・教育』:対象となるのは、訓練・教育の参加者と主催者の両方です。主催者自身が評価の対象者であるとは意外かもしれませんが、これは彼らもまた訓練教育に期待するものと実施結果とのギャップを意識するわけで、この点で重要だからです。
『更新』:更新は文字通りBCP文書の更新改訂を任された担当者です。
『点検』:これは防災対策やリスク対策、事業継続対策の実施・実装状況を点検する担当者です。
『見直し・改善』:BCMでは「見直し・改善」のチャネルも、そこに関わる人も多種多様です。よってその時々で「見直し・改善に関わった人々」を対象とします。
『リーダーシップ』:災害時のリーダーとしての能力だけでなく、事業継続文化の推進、定着に貢献するための行動力も含みます。したがってここでは、一般的な意味での「リーダー層」に加え、自身の役割を果たすために積極的に活動する人すべてを対象とするものとします。
■具体的な評価指標と評価レベルの設定
BCMの活動項目を評価するためのスコープ(範囲)が決まったところで、ここでは、これらの活動の具体的な評価指標と評価レベルについて考えてみましょう。
5つの活動を評価するためには、それぞれ何らかの成績を定量的、定性的に可視化するための切り口がなくてはなりません。学校の通信簿に例えると、数学の評価なら「計算能力」「論理的に証明する能力」「原理や公式の応用力」などが当てはまるでしょうか。この考え方は人それぞれですが、最初はなるべく客観的でシンプルな切り口を選びたいものです。
『訓練・教育』:1つは実施頻度と種類の多様性です。従来の防災に即した訓練や教育以外にどのような活動を追加・実施したかが鍵になるでしょう。また、あらかじめ設定した目標と結果とのギャップや満足度などをアンケートを通じて捉えます。
『更新』:更新はBCPや補助書類の記載情報を最新の状態に維持する活動ですから、これは情報ソースの特定から変更、配布に至る更新手続きのサイクルが可視化されていて、それがタイムリーに回っていることが目安になるでしょう。
『点検』:ここでの点検とは、(備蓄等含む)BCP防災や上の対策の実施状況を定期的に確認する手続きです。点検の実施頻度とそのフィードバック、つまり点検結果に不備があった項目について担当部署に対策を促すなどの記録の有無がポイントになります。
『見直し・改善』:この活動は更新と似ていますが、こちらは、よりBCPの方針や規定の変更など根幹にかかわる部分に立ち入って検討し、必要に応じて軌道修正するものです。したがって、見直し改善のための情報ソースも多種多様で、演習・訓練からのフィードバック、環境の変化、条例の発表などを随時モニタリングし、タイムリーに実施しているかどうかが鍵になります。
『リーダーシップ』:リーダーシップについては、会社の人事課が評価シートなどを持っていることも多いので参考にするとよいでしょう。一般的な項目では「指導力」「調整力」「判断力」などが挙げられます。
次に「評価レベル」それぞれの評価指標について、どのような値で評価するのかを決めます。例えば学科の成績を5段階で評価するのか、それとも10段階、あるいはA、B、Cで評価するのかといったことを指します。これはある程度、当事者の考え方や判断に任されるので一概には規定できませんが、一例を図表2にまとめてありますので参照してください。
次回は、これまで述べたBCM活動の評価指標と評価レベルが、実際の評価手順にどのように反映され、生かされるのかについて説明します。
(了)
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