2018/12/21
「災」の2018年、識者が振り返る

「JAPAN」と「3H」意識を
2016年度に約539兆円となった日本のGDP(国内総生産)を産業別にみると製造業が約2割を稼ぐ。製造業を中心とした愛知県の県内総生産は2015年度において約40兆円で東京都に次ぐ2位。隣接する静岡県も約17兆円ある。福和氏は政府の南海トラフ地震対応のWGで主査を務めていたが「もし南海トラフ地震が起こった場合、日本の産業の心臓部である中部地方を直撃することになる。自動車産業などは世界中に影響が及ぶことが必至だ」と指摘する。
大阪北部地震で946億円超という、1995年の阪神・淡路大震災の約783億円を大きく上回る地震保険金が支払われたことをふまえ、「南海トラフ地震の場合、地震保険の請求額は50兆円を超えると思われるが、減額支給することになる。そもそも、三大メガ損保の総資産を超えるような被害にどう対処するか。企業も保険に頼らず対策を進めるべきだ」と福和氏は語った。WGの報告書では企業に対し南海トラフ沿いで異常があった場合、被害のなかったエリアでも出火防止など施設の安全措置や従業員の避難などのほか、事前のデータのバックアップなどの対応を推奨している。また平常時からBCP(事業継続計画)の策定も呼びかけているが、事業継続のためにあらゆる備えをすべきだと福和氏は呼びかける。
さらに福和氏は「南海トラフ沿いで最初の異常としてM8クラスの地震による『半割れ』が起こった場合、被災地支援で手いっぱいで、その時点で被害のなかったエリアの支援まで手が回らない」と指摘。WGの報告書については「南海トラフ地震の臨時情報後の行動を示したものであるが、今やるべきことに多くの人が気づいてほしい。南海トラフ地震は日本が最貧国に落ちかねない危機である」と語り、メディアが国民に対して災害への備えの啓発を続けることも含め、意識改革を行うことが大事だとした。
福和氏は災害に強い国づくりで重要なこととして、次世代に社会を継承させるような長い視点を持つことを指摘。「過度の集中・効率化は短期的な利益は生むが、次世代につながる社会づくりにはつながらない。東京が地方から人を吸い上げる一極集中も好ましくない」と語り、中部の製造業が地元の人材に支えられていることを例に、現状の社会構造の改革を訴えた。「時間も空間も、遠近のバランスを持ってとらえることが大事。今はどちらも近くに焦点を当てすぎている」と福和氏は警告する。
さらに「私は日本には3つの『JAPAN』という考え方が必要だと思う」と述べる福和氏。その考え方は下記の通りだという。
Aは「頭を使う」「汗をかく」「愛を育む」
Pは「(いい)プラン」「(いい)プレーヤー」「(具体的)プロダクツ」
ANは「アナリシス」「アンテナ」「アンサー」
「これらを意識すれば日本をいい方向にもっていけるのではないか」と福和氏。さらに「災害対策に必要なのは『本音』で語り『本質』を知り『本気』で考え実践の3H」と語り、南海トラフ地震や首都直下地震に備えないとならない今、抜本的な構造改革も含めた「日本の3H」がまさに問われている旨を強調した。
■関連記事「南海トラフ、後発地震備え1週間避難も」
http://www.risktaisaku.com/articles/-/13572
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
「災」の2018年、識者が振り返るの他の記事
- 耐震化へ行政は住民寄り添い悩み解決を
- 「災」の2018年、識者が振り返る
- 集中・効率化に歯止め、災害備え変革を
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方