加藤氏は今年を振り返り、耐震化や災害に強い都市のあり方などを語った

災害に総合的アプローチを

3月29日、旧耐震基準の建築物の診断結果を東京都が公表。延床面積1万m2以上の不特定多数が利用する大規模施設と特定緊急輸送道路沿道建築物が対象だったが、港区のニュー新橋ビルなど著名な施設が震度6強以上で倒壊の可能性が高いことがわかった。また、調査対象の約3割が6強以上で倒壊可能性あり、約2割は倒壊可能性大という結果は大きな波紋を呼んだ。この前日の同28日には都の「特定緊急輸送道路沿道建築物の耐震化促進に向けた検討委員会」が未耐震化建築物の公表を含めたふみこんだ内容の報告書のとりまとめを行っていた。同委員会の委員長を務めた東京大学生産技術研究所准教授の加藤孝明氏が今年の災害も含め振り返った。

加藤氏は水害について、「今年は気候変動の影響が本格的に顕在化してきた。これまでは封じ込めが行われてきたものの、対策をはるかに越える現象が起きることを認識すべき1年になった」とまずは分析。平成30年7月豪雨において愛媛県の肱川でダム放流による急激な増水も起きているが、「ダムの水量を減らすと渇水の恐れがある。今の安全に関するシステムが破たんしつつあり、どうリスクとつきあうか本格的に考えないといけない」と語った。

6月の大阪北部地震ではブロック塀の危険性が注目されたが、加藤氏は「1978年の宮城県沖地震で既に注目されていた危険性。それがいまだに解消されていなかったがゆえに今回また死者を出すことになってしまった」と悔やむ。そして「『災害は忘れたころにやってくる』というが、人間は本当に忘れやすい。災害の記憶があるうちに問題に対処しないといけない」と警告する。ブロック塀撤去への補助が全国的に広がっているが、「避難行動にも言えることだが、大勢の人を巻き込んだ動きを起こすことが大事だと思う。近所で複数の世帯でまとめてとか、街ぐるみで撤去したら補助金を上げるとか、多くの人を動かす仕組みづくりは大事だ」と加藤氏は分析した。

9月の北海道胆振東部地震では全道停電が発生した。「今は便利になり過ぎて、心づもりも含め停電への備えが薄かった」と述べた加藤氏は、停電時の明かりのない中で星の美しさに気づいたという人の話を交え、「不便を前向きにとらえる力も持った方がいい。今は起こった現象にどう対応するかしか考えられていないが、星の美しさに気づくような新しい視点も必要だ」とし、蓄電池などの普段からの備え以外に、アクシデントがあった際には何でも立ち向かおうという対処のみでなく、前向きさや新たな視点をふまえた心の余裕も重要なことを説明した。

今年は洪水や土砂災害、液状化などで土地利用や都市のあり方も問題になった年だった。加藤氏は「土地の危険性を知らずに住んでいることは危険だ。危険性を知らないと災害に備えないだろう」と警告する。ハザードマップが注目されているが、「立札や碑など、その場所の危険性が自然とわかるような取り組みは大事」だとした。加藤氏によると災害に対して都市が抱えるリスクは(1)ハザードと市街地の分布の重なり(2)人口密度など集積量(3)脆弱性(街の質)―の3つで決まるという。脆弱性はハードのほかコミュニティなどソフト面の影響も大きい。危険箇所を把握しそこに市街地を置かないなど、これらは人間によってコントロールできるもので、意識した街づくりが重要になる。

さらに加藤氏は「水害対策であれば(1)逃げられる(2)生き延びられる(3)復旧できる―の視点も大事」という。水や電気が確保できる安全な避難所のほか、住宅も戸建なら1階を車庫にした3階建て、もしくは高層マンションにして水に強い建材や設備を使えば被害を最小限に抑え、復旧もしやすくなる。

これらをふまえ「もはや一点突破型のソリューションは災害には通用しない。総合的なアプローチが必要だ」と加藤氏は多様な視点と手法の重要性を説いた。