ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
大規模殺傷事故の現場で、傷病者をトリアージする
MCIにおけるインシデントコマンドシステムと各隊の動き
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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日本でもおなじみのトリアージ法、「START」(Simple triage and rapid treatment /簡単なトリアージと迅速な救急手当) は1983年にカルフォルニアで発明された。大規模殺傷事故や事件(MCI:Multi Casualty Incident)が起きた際、ファーストレスポンダーが、現場到着後いち早く傷病者を観察し、救急処置の優先順位や搬送先の判断の精度を高め、救命率を向上させるための手法だ。
日本では、活動隊、または、評価者によって、上記のトリアージハンドブックにあるように救急救命士でなければ評価できないような解剖学的評価までをマニュアル化しているようが、アメリカの場合は、1人の負傷者に対するトリアージ評価タイムは30秒以内とされており、先着隊隊員に近い負傷者から「30-2-Can Do」の要領でトリアージを行っている。
まず、現場到着後、負傷者達に「歩ける人はこちらに来て下さい」と指示し、歩いて所定の位置(緑のシート)まで歩行できれば、緑色の「Minor:軽傷」のトリアージリボンとタグを付けるか、トリアージリボンとタグを手渡して自分で付けてもらう。
「30-2-Can Do」の30は、負傷者の呼吸が1分間に30回以上の場合、2は
CRT (Capillary Refill Time:毛細血管再充満時間)が2秒以上かかる場合、または負傷者が単純な動作指示に従わない場合、赤色の「Immediate:即時(搬送)」のトリアージリボンとタグを付ける。
それ以外は、黄色の「Delay:随時(搬送)」と黒色の「Mogue:遺体(不搬送)」と評価されて、それぞれの処置や対応を行う。
なぜ、評価を30秒以内にしているかという理由は、航空機などの墜落、爆破テロやラミングアタックテロ(車両で次々に人を轢いていく)等の大規模殺傷事件の場合、負傷者が広く何カ所かに散らばって倒れているケースもあり、トリアージのスピードが負傷者の救命率を左右することや2次的なテロや災害が発生すること、交通障害や人通りなどの生活環境障害を最小限にすることを目的としているためだとしている。
また、MCIの現場において、通報から平均7分前後で到着する消防の先着隊の消防隊員が現場でトリアージする目的は「意識と反応の確認」であり、救急道具は酸素と簡単な処置セットしか持っていない。トリアージ後に消防士が行える「圧迫止血」「呼吸管理」や解剖学的評価までの必要性はないことを前提としている。
詳しくは下記を参照。
RPM:Respiration(呼吸回数), Profusion(毛細血管再充満時間), and Mental status assessment (理解反応)
大規模殺傷時のトリアージ手順について
このように日本でも既に取り入れられ、世界標準となっているトリアージ手法「START」だが、そのシステムは負傷者の救命率を高めるために年々進化している。
今回は、現役の救急救命士の方からリクエストをいただき、「Disaster Management Systems,Inc.」によって改良され、米カリフォルニア州が採用後、全米に広がっている最新のトリアージ・システムをご紹介したい。日本で使用されている従来のシステムを改善する際のひとつのアイデアとして、簡単ではあるが、少しでも参考になれば嬉しい。
まず観ていただきたいのは、米カリフォルニア州エルドラド郡救急局が作成した「大規模殺傷事故対応計画(MCIP:Multi Casualty Incident Command Plan)」だ。これは大規模殺傷事故(MCI)が発生した際、現在カリフォルニア州のすべての救急局が遂行する行動マニュアルの代表例だ。
■ 「大規模殺傷事故対応計画(MCIP:Multi Casualty Incident Command Plan)」(米カリフォルニア州エルドラド郡救急局)
www.edcgov.us/government/ems/mci/documents/2016%20MCI%20PLAN.pdf
もう一つは、カリフォルニア州が採用した最新トリアージ・システムを開発したDisaster Management Systems,Inc.社が作成した、教材ビデオだ。この動画は、トリアージ・システム運用の中核となる「MCI」キットの使い方を紹介している。
■公式動画 All Risk® Triage Tag - START from DMS(出典:Youtube)
この2つを押さえたうえで、以下のシミュレーション動画を観てほしい。
この動画を観ていくと、まるで、その現場に居ながら、指揮下に入り、トリアージしながら、複数の傷病者の観察や処置を行い、搬送先を判断できるようになるまでの訓練を行うことができる。
■公式動画 MCI The Movie - Extended Training Version (出典:Youtube)
このシミュレーション動画が素晴らしいのは、前後編の2バージョンで構成されていること。前編で一通りの手順を紹介したのち、後編は適宜ビデオを早送りして、特に大規模殺傷事故の現場で救急隊員が押さえるべきポイントを振り返って確認できる。さらに運用の核となるツール「MCIキット」の使い方が、ストーリーの中に巧みに組み込まれている。
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