セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~
私たちの周りのセキュリティ「モノ」(3)金属探知機
五輪会場にスムーズに入るために
Toki's SECURITY Lab./
平川 登紀
平川 登紀
旧姓・宇田川。映画『羊たちの沈黙』のFBI訓練生クラリスに憧れ渡米。ワシントン州立大学大学院で犯罪法学(Criminal Justice)の修士号を取得。帰国後、航空セキュリティ関連の財団法人で、空港保安検査員の研修や保安検査状況の監査を担当し、航空セキュリティに興味を持つ。2007年、東京大学大学院博士課程へ進学し、本格的に航空セキュリティマネジメントの研究をスタート(2011年単位取得満期退学)。2021年に佐賀県唐津市へ移住。現在、フィジカルセキュリティストラテジストおよび航空セキュリティ研究者として活動中。
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当連載では8月から私たちの周りにあるセキュリティ「モノ」についてお話をしています。今月はセキュリティチェックポイントの必需品、金属探知機について説明します。
金属探知機ってどんなモノ?
金属探知機は、その名前の通り、金属を探すための機器です。私たちの身近にある金属探知機は大きく分けて2種類、人が通過するときにチェックする門型と、ボディチェックの時に使用する携帯型です。私たちが金属品を身に着けて金属探知機を通過すると、探知機の電磁波が反応し、アラームが鳴る仕組みです。
「小銭、たばこ、スマホ、ライターなどの金属品はポケットから出してください」
「ベルト、時計は外してください」
どの空港の保安検査場でも、検査員が旅客に対してこうした要請を行っています。金属探知機は拳銃やナイフなど航空機の安全運航に脅威となるものを発見するために設置されています。「そんなものを持って飛行機には乗らないよ」と思うかもしれませんが、日本でも国際線が多い空港では大小問わずいろいろな形状のナイフや、時に銃弾さえ見つかることがあります。荷物に入れたことを本人が忘れてしまっていたり、護身用で持っていたり、持っていけると思っていたり、など理由は様々です。
最近は、組み立て式の金属探知機もあります。場所を取らずに保管でき、男性ならひとりでも運搬可能、組み立て時間は5~10分ほど、充電式なので電源のない屋外でも使用できます。急にVIPが来ることになったなど、普段金属探知機が設置されていないエリアのセキュリティレベルを緊急に上げることになった時に重宝します。
金属探知機の設置場所
金属探知機は、空港以外にも設置されています。海外では、政府機関、裁判所、港湾、原子力発電所、刑務所、駅といった重要施設には必ずといってよいほど金属探知機があり、たいていはX-ray検査装置も一緒にセットされています。また、大企業が入居しているビル、病院、工場、金融機関、保険会社等の民間施設にも設置されている場合があります。
日本では、空港以外にはあまり目に触れるところに金属探知機はありませんが、やはり、原子力関係施設や裁判所などの重要施設には設置されています。一方で、多くの省庁が入居している合同庁舎には金属探知機もX-ray検査装置も設置されていないところがほとんどです。厳格なボディチェックや荷物チェックを受けていない人々が庁舎内を結構自由に動きまわっています。仕事上頻繁にここを訪れる人々にとっては、保安検査という煩わしいものがなくてラッキーですが、テロリストにとってもこの状況はラッキーですよね。
金属探知機は、サミットやスポーツ大会などの国際的なイベントでも使用されています。2016年のオリンピック・パラリンピックの開催国ブラジルでは、競技施設の警備に使われた金属探知機とX-ray検査装置を、大会後刑務所の警備強化を目的にブラジル内の各刑務所へ設置しなおしました。オリンピック・パラリンピックの開催国では、交通インフラやスタジアムなどの施設がレガシーとして残りますが、ブラジルではオリンピック・パラリンピックで使用した資機材を国の治安向上のために再利用するというセキュリティレガシーも残しました。
日本も2020年には何百台もしくは何千台の金属探知機が必要になります。これだけの量の金属探知機、その後の使用方法が決まっていないと、ポンと購入することできません。どうするのかなと興味がわきます。
「レガシーとして」というよりは「今日から」
金属探知機は私たちの安全のために必要なものであり、どのような方法で何をチェックするためのものなのか、多くの人々は理解しています。そのため、空港の保安検査場では、旅客たちが自ら進んでポケットから金属品をトレイに置いていく光景が普通です。それでも時々「このベルトはいつも金属探知機に反応しちゃうんだよね」とか「ポケットの中身は小銭だけだよ。全部出すの?」といった検査に非協力的な人々の声が聞こえてきます。金属探知機が反応すれば、保安検査員は対象者の金属反応がなくなるまで確認をしなければならず、対象者自身も何度も金属探知機を通過することになり、反応が続けばボディチェックを受けることになります。時間もかかるし、お互いに良い思いもしません。非協力の姿勢は誰も幸せにはしません。旅客ひとりひとりが金属類は身体から外して探知機を通過すること、その協力姿勢が安全のためには必要なのです。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは金属探知機によるチェックのため長蛇の列ができるでしょう。先に金属類をすべてトレイに置いて金属探知機を通過する、必要のない金属類は最初から持ってこないなど、セキュリティチェックを早く通過できるように全員が準備しておけば、真夏の暑い時期に長い列に並ぶ必要がなくなり、外国人にはスマートな日本のセキュリティチェックという印象が残るでしょう。
セキュリティチェックはされる人にとっても保安検査員にとってもストレスがかかるものです。セキュリティに協力する姿勢は、レガシーとしてというより、今日から持っていただければと思います。
(了)
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