写真1:筆者が撮影したボラード

ボラードってどんなモノ?

8月の連載から私たちの周りにあるセキュリティ「モノ」についてお話をしています。今月はボラードについて説明します。

そもそも、ボラードってご存知ですか?

ボラードは私たちの安全な日常生活に欠かせないセキュリティ「モノ」のひとつです。日本ではあまり聞きなれない単語ですが、周りを見回すと意外と身近に存在しています。写真1の地面から出っ張っているポール、これがボラードです。ボラードの多くは車両の進入規制の目的で設置されています。

欧米におけるボラードの活用

欧米ではボラードを活用し、車爆弾や暴走車に備えています。欧米のセキュリティ専門家の多くは最大の脅威として車爆弾を挙げます。彼らは車爆弾により多くの生命が失われた歴史を学び、その恐ろしさを知っているからでしょう。

1983年4月18日、レバノンの首都ベイルートのアメリカ大使館で爆弾を積んだワゴン車が暴走、玄関ドアを突き破って爆発しました。この爆発でアメリカ人を含む63人が死亡、120人が負傷しています。同年10月23日、ベイルートのアメリカ海兵隊の現地司令本部があったベイルート国際空港にもワゴン車が突入し爆発、241人が死亡、その数分後にはフランス空挺隊基地にもワゴン車が突入し爆発、297人が死亡しました。1998年8月7日にはケニアの首都タンザニアのアメリカ大使館に爆弾を積んだトラックが突入し爆発、291人が死亡(写真2)、また同日同時刻にタンザニアの首都ダルエスサラームのアメリカ大使館も同様にトラック爆弾により10人が死亡しています。

ベイルート国際空港に突っ込んだワゴン車には5400kgにもおよぶTNT(トリニトロトルエン:黒色火薬の2倍の爆発力がある)が積まれていたといわれています。人が自分の手で運ぶ火薬の量には限界がありますが、車を使用すると1tや2tの火薬は容易に運ぶことができ、その被害も尋常ではありません。

トラック爆弾というテロ攻撃を受けてきた欧米では、政府機関が入居する建物、原子力施設、空港・駅といった重要施設の周りにはボラードが設置されています。

大型トラックが80kmで暴走してきても侵入を阻止させることができるほど強固なボラードもあります。欧米においてボラードは、単に車両と歩行者のエリアを区切るだけの「モノ」ではなく、テロ対策のために不可欠な「モノ」となっています。

日本におけるボラードの活用

ボラードは、日本では車止めとも呼ばれ、歩行者天国のエリアを示すためにも使われています。2008年6月8日に、トラックで歩行者を次々はねるという秋葉原通り魔事件も発生していますが、爆弾を積んだトラックが突っ込むというテロは過去国内では起きていません。そのため、日本ではテロ対策にボラードを使用するという意識は低く、車両の進入を規制する目的で使われることがほとんどです。

以前英国の友人が来日し、一緒に都内を歩いていたとき、「彼らは何をやっているんだい?」と友人が私に尋ねました。視線の先には制服姿の警察官、彼らはキャスター付きの簡易ボラード(らしきもの)を手にしていました。「この向こうには重要施設があるので、車の進入を規制しているのです」と伝えたところ、友人は「悪意を持った人間が運転する車が、あれで停止すると思っているのかな?」とつぶやきました。私にとってその光景は見慣れたもので、友人に言われるまで何の不自然さも感じませんでした。彼らはあくまでも一般車両をこの先へ入れないようにしているだけ、車爆弾のテロを警戒しているわけではないということに気づかされた瞬間でした。

レガシーとして

上述してきたように、日本でもボラードは身近に存在しているけれど、テロ対策のために設置されていることはあまりありません。しかし、車爆弾による被害を考えたとき、その暴走と侵入をどのように止めるか、そのひとつの解決策としてボラードが有効であるといえるでしょう。

ボラード設置後には私たちの意識も変えていかなければなりません。欧米の人々は、ボラード内はセキュリティエリアであると考えています。そのエリア内に不審な人がいたり不審なモノが置かれていたりすると、警察や警備員またエリアスタッフ(駅であれば駅員)へ報告するということが当たり前になっています。セキュリティエリア内に入ったら、自分たちもそのエリアを安全な場所にしておく責任を持つ、という意識です。

ボラードをテロ対策としてもっと活用することとともに、こうした意識を私たちひとりひとりが持つこと、これもまたセキュリティレガシーとして残していきたいと考えています。

(了)