床上浸水した家屋の泥出し風景(画像提供:高田昭彦氏)

「そのボランティア活動は本当に有効性が検証されたものなのか?と思うことがよくあります。あらゆるものの判断基準が情緒的で、正面から議論できない雰囲気になっているんです」と指摘するのは、神奈川県川崎市在住の高田昭彦氏(54)。 東京都内の事務機器メーカー・富士ゼロックスに勤める高田氏が災害ボランティアを始めたのは2004年の新潟県中越地震の時。地震直前まで仕事で居住していた新潟県柏崎市が被災し、少しでも復旧に役立ちたいと思い活動を始めた。これをきっかけに現在まで14年間、さまざまな被災地で災害ボランティアに携わり、今でも月1~2回のペースで福島県内の旧避難指示区域に通う。ボランティア活動への参加者は東日本大震災以降、かなり増えてきたが、実際にボランティア活動を経験するなかで、いくつか課題も見えてきたという。

ボランティア活動の質低下

まず高田氏が危惧するのは、ボランティア活動全体の質が落ちていること。東日本大震災以降、災害ボランティアの活動が広まったことで、未経験者の割合が急激に増えたことが要因と考えられる。ボランティアの裾野が広がったことで、一部では経験者の数が増えて質が向上している反面、未経験者の数の方が圧倒的に多く、全体として活動の質が落ちてしまっているという。

例えば今回、平成30年7月豪雨で水没した家屋の「泥出し」。現場の作業では床下に流入した泥を掻き出す必要があるが、効率よく作業をするためには床材をバールで剥がしたりノコギリで切る必要がある。その際に、本来必要のない箇所まで誤って剥がしてしまったり、内装壁を汚泥などでよごしてしまう例も見受けられるという。

「作業全体の趣旨や流れが十分伝わっておらず、間違ったまま広まってしまうことも少なくない」と高田氏。「被災者は、家財が傷つけられてもボランティアの気持ちを考えれば感謝するしかない。こうした実態は被災地の外に届かず、改善が進まない」(同)。

ボランティア初心者の装備不足も問題となっている。これまでは「ボランティアが被災地で事故や病気になれば逆に迷惑を掛ける。自分の装備の準備や体調管理はすべて自分でするという暗黙のマナーがあった」と高田氏は語る。

ところが最近は十分な装備のないまま参加するボランティアも少なくない。「未経験で装備を持たない参加者のために、ボランティアセンターは捨て手袋やマスク、熱中症対策飲料などを用意する。気軽に参加できるのはよいことだが、ますますボランティアの装備のレベルが下がってしまう」という悪循環に陥る。

マイナスを言えない雰囲気

もう一つ高田氏が心配するのが、ボランティア参加者の精神状態について。「ボランティアは『共感』を大事にするあまり、理屈は嫌われるし、否定的な意見も敬遠される」。その結果、孤立や対立化するボランティアも散見されるという。

被災者とボランティアをマッチングさせるボランティアセンターは、自治体の管理のもと、民間の社会福祉協議会、地域のNPO・NGO、青年会議所などが運営している。「仲の良い同士で集まって話をすることがあるが、考え方の違う人とは交流が無い」縦割りならぬ仲間割り状態になりがちだ。こうした組織体制になる背景として高田氏は「ボランティアセンターに法的位置づけがなく、自治体など行政は社会福祉協議会に任せきりで、実態を把握できていないのでは」と推測する。オープンな組織体制がつくりにくく、外部ボランティアや被災地住民が意見すらできない環境になりやすいという。

「外部から疑問の声があがっても『被災者は喜んでいる。第三者が口を挟む必要はない』と事務局や関係者が応じるだけで、建設的な議論ができない。中身が議論されないまま、多数派と少数派の力関係だけで意見が収れんしてしまう『沈黙の螺旋』が起きている」と高田氏は指摘する。

専門家と自由に議論できる場づくりを

こうした状況を改善するにはどうすればよいか。

ボランティアの質について高田氏は、「特に震災直後の段階では、経験者と初心者がペアを組む」など質向上のしくみを組み込むことを提案する。今後災害ボランティア活動が裾野を広げていくためには、現状のような経験者と初心者の圧倒的な不均衡による弊害は一時的には避けられない。が、高田氏は、問題点を明確にして、皆が意識するようにすれば、影響を最小限にできるし、解決策も見つかるはずだと、前向きにとらえている。

ボランティアセンターの組織体制については、根本的にはボランティアセンターの法的位置づけを確保する法改正が望まれるが、今できる改善策として、「ボランティア活動のあり方やノウハウについてオープンに議論できるプラットフォームの構築」を提案する。現地で活動するボランティアが体験したことや感じたことは有効であることは間違いないが、ある場面では衛生・医療・建築土木・介護・心理など専門家とコミュニケーションが必要な場面も多いと見る。「専門家とボランティアに携わる人とのコミュニケーションを密にして、何か気づいたことがあれば自由に議論できる環境を提供することが急務」と高田氏は指摘する。

少しずつではあるが、改善の兆しもある。

何人かのボランティア参加者が「泥出しの際、床下地材や内装壁に養生したら汚れずに作業ができた」と自身の知見をSNSで共有するようになった。「よい事例が共有されていくことは現状の改善につながっていくはず」(高田氏)。具体的な技術標準を打ち出すボランティア団体も出てきた。「まだまだ基準を一本化するのは難しいが、なぜ、そうする必要があるのという議論は始まりつつあり、ガイドラインなどにつながっていくことが望ましい」(同)。

写真を拡大 災害ボランティアの予備知識をわかりやすくまとめて公開するボランティア団体も出てきた(出典:認定特定非営利活動法人レスキューストックヤード:http://rsy-nagoya.com/volunteer/volknowledge.html

被災地で活動するボランティア団体は「他団体と方向が違っても何も言わず、無関心を装うことが美徳」とされ、お互いに交流する機会が少なかった。こうした状況に対する問題意識から、熊本地震を契機に「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」(http://jvoad.jp/)など、災害ボランティア団体同士をつなぐNPOの活動も注目されるようになった。

「西日本豪雨の被災地ではまだ災害ボランティア不足が続いている。専門家のアドバイスや被災者の声に耳を傾けて、大いに参加してほしい」。

「被災地では災害ボランティア団体同士がオープンに交流できる場が必要」と話す高田氏

(了)

リスク対策.com:峰田 慎二