国鉄分割民営化後で最多となる犠牲者を出したJR福知山線脱線事故は、企業などの過失に刑事罰を科す「組織罰」導入を求める動きの原点にもなった。海外では組織罰が導入された国もあるが、国内での実現は道半ばだ。
 福知山線事故を巡っては、JR西日本の歴代4社長が業務上過失致死傷罪で起訴・強制起訴されたが、事故の予見可能性が認められず、いずれも無罪が確定した。
 同罪は個人を対象としているため、組織トップの刑事責任を認定するのは難しいとされる。東京電力福島第1原発事故でも、強制起訴された東京電力旧経営陣の無罪が今年3月に確定。株主代表訴訟では旧経営陣の過失が認められたが、判断が分かれた。
 事故で娘を亡くし、「組織罰を実現する会」代表を務める大森重美さん(76)は、「直接の行為者だけではなく、『組織的な過失による事故』として所属先の企業なども刑事責任を取るべきだ」と主張する。「刑事罰で組織に多額の罰金を科すことにより、現場レベルから幹部まで、組織全体の安全意識が向上する」として、再発防止にも導入が必要だと訴えている。
 海外では、事故を起こした組織の刑事責任を問える国もある。同会事務局の津久井進弁護士によると、英国では1987年に約200人が犠牲となった船舶事故をきっかけに、組織罰導入に向けた議論が活発化。政権交代による後押しもあり、2007年に「法人故殺法」が成立した。欧米諸国を中心に、類似した法規が整備されている国は多いという。
 福知山線事故後、英国を視察するなどした大森さんは、「日本で組織罰の必要性について認識が広まっている実感はない。実現に向けて社会全体で動きをつくる必要がある」と強調。津久井弁護士も、勤務先が事故を起こすこともあれば、自分自身や家族がその被害者になることもあり得ると指摘し、「組織罰は誰にも関係する問題だ」と訴えている。 

(ニュース提供元:時事通信社)