戦略的広報の仕掛け人がなぜ相次ぎ炎上?
第13回:「キラキラ広報」というリスク

吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
2024/12/12
共感社会と企業リスク
吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
広報業界の一部に「キラキラ広報」という言い方があります。スタートアップ企業などで、野心あふれる(特に若くて美しい女性)広報担当者が、自己顕示欲が透けて見えるような言動をされるのを、広報はあくまで裏方であるべきだと考える人々が揶揄する表現です。
誰が言い始めたかはわかりませんが、最初の例は、堀江貴文さんが時代の寵児だった頃に、ライブドアに美人広報がいると話題になって、本人がタレント化しかけた乙部綾子さんだと思います。その後、ライブドア事件(2006年)が起きて、乙部さんは退社。その後は表には出ていらっしゃらないようですが。
今月(2024年11月)は、月初めにはタイミー広報部長の炎上、そして下旬には兵庫県知事選に絡んだ騒動が起きました。どちらも、いかにも「キラキラ広報」的な広報担当者やPR会社の社長が起こしたトラブルです。
今回は、企業リスクとしてこの「キラキラ広報」問題を考えてみたいと思います。
第一の炎上は、株式会社「タイミー」広報部長のXへの投稿から起きました。
11月1日、同社がテレビ東京「ガイアの夜明け」に取り上げられるという告知を
という文言でされ、「仕込んできました」とはどういうことだと騒動になったものです。
それほど大きな炎上ではありませんでしたが(というより「ガイアの夜明け」放映後に問題になった同社が目視による求人情報の精査を、掲載前ではなく稼働日を目安に行っている問題の方がはるかに深刻だと思います)、XでもFacebookでもメディア関係者、広報関係者がかなり反応していました。
参考:徳力基彦「タイミーの「仕込み」騒動で改めて考えるべき、炎上時の初動対応の重要性」
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/2f78c80816356e22d5f03d582e55f6d758980fa1
「仕込んだ」と言ってしまうと、いかにも金銭などで「取り上げさせた」というニュアンスが出てしまうので、ステルス・マーケティング(ステマ)を疑われかねません。メディアにとっては視聴者の信頼を損なう致命的な疑惑なので、不適切だという批判が出ました。
正当なメディア・リレーションズによって交渉し、番組で取り上げてもらったにしても、メディア側からすれば、「自分たちは仕込まれたのか…」と微妙な気持ちになってしまうことは避けられません。
結局、広報部長はXの投稿を削除、社長が謝罪する展開になりました。
「ガイアの夜明け」といえば、ビジネス系ではパワーのある番組ですから、取り上げられたいと考える企業は多いはずです。達成感のあまり、つい妙な方向に誇ってしまった、そういう「雉も鳴かずば撃たれまい」的な炎上でした。
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