「禊(みそぎ)」としての記者会見に意味はあるのか
第14回:状況を悪化させたフジテレビの会見
![吉野 ヒロ子](/mwimgs/f/6/-/img_f671ee255e981c09c06d8f285b6f7baf45827.jpg)
吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
2025/02/11
共感社会と企業リスク
吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
私の「広報論」の講義では、毎年「危機管理広報」について1回分割いており、それとは別に直近で起きた事例を折々解説しています。講義では「危機管理広報でしてはいけないことを全部やってしまった例」として、雪印乳業食中毒事件(2000年)を中心に説明しています。
四半世紀前の事例ですが、患者数1万4000人以上と戦後最大規模の食中毒を起こしてしまったこと自体もさることながら、➊発覚時に、株主総会のために経営陣が北海道へ移動中だったこともあり、初動対応が遅れた➋後から後から悪い話が出てきてしまい、記者会見を何度も行う羽目になった➌その中で社長の失言も飛び出してしまい、激しく批判されたと、危機管理広報の不手際によって傷を広げたものです。
記者会見に代表される危機管理広報は、本来は情報を真摯に開示し、問題の原因を明らかにすると同時に再発防止策を提示することで、信頼を取り戻すためのものです。しかし、それがうまくできない事例が近年目立っているように思います。
2023年のジャニー喜多川性加害問題では、ジャニーズ事務所のタレントを広告に起用していた企業が一斉に離れたのは、ジャニーズ事務所が最初の記者会見を行った直後。2024年末の週刊誌報道から発覚したフジテレビによる社員の性被害隠蔽問題も記者会見の失敗によって、広告主が次々と降り、返金を求める展開になりました。
どちらも記者会見が見切りをつけられるきっかけになっています。
すでにいろいろな視点から報道されている問題ですが、今回はフジテレビの問題から記者会見の意味を考えてみたいと思います。
なお、この原稿を書いているのは2026年1月末。フジテレビが2回目の記者会見を行い、当初、フジテレビ幹部に騙されて被害に遭ったと報道していた週刊文春が、声掛けしたのは中居正広氏で、幹部社員が被害者を積極的に騙したわけではないと訂正を出した後になります。
まずは何が起きたのか、振り返ってみましょう。
【スクープ前】
2023年6月:中居正広とフジテレビ女性アナウンサー(当時)の間で問題が発生。社員は上司に報告
2023年7月:女性アナウンサー、体調不良のため休業
2023年8月:港浩一社長(当時)が編成担当専務より報告を受ける
<時期不明>:中居正広と女性アナウンサーの間で示談
2024年1月:松本人志の無期限活動休止に伴い、中居正広のレギュラー番組『まつもtoなかい』(フジテレビ)を『だれかtoなかい』に改称して継続
2024年8月:女性アナウンサー、フジテレビを退社
【スクープ】
2024年12月19日:「女性セブン」による第一報
参考:【スクープ】中居正広が女性との間に重大トラブル、巨額の解決金を支払う 重病から復帰後の会食で深刻な問題が発生|NEWSポストセブン
2024年12月25日:「週刊文春」が報道
参考:中居正広9000万円SEXスキャンダルの全貌 X子さんは取材に「今でも許せない」と… | 週刊文春 電子版
※幹部が複数名で会食すると女性アナウンサーを呼び出し、行ってみると中居正広と二人きりだったらしいと「女性アナウンサーの知人」がコメント。後に、幹部の直接的な仲介はなかったと訂正される。
【スクープ後】
2024年12月27日:フジテレビと中居正広がコメント
フジテレビ:幹部の関与を否定
中居正広:有料会員サイトでファンに謝罪
※年末に出演CM(ソフトバンク)削除、収録済みの番組はそのまま放送
2025年1月7日:日テレ系『ザ!世界仰天ニュース』出演シーンカット
※テレビ・ラジオの冠番組4番組が放送休止
2025年1月9日:中居正広、公式サイトに声明文を掲載
※トラブルがあったことを認めたもの。「示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」という主張への非難が相次ぐ
2025年1月14日:フジ・メディア・ホールディングスの株主「ダルトン・インベストメンツ」が書簡公表
※コーポレート・ガバナンスに重大な欠陥があることを指摘し、株主価値を損なっていると非難。第三者委員会による調査や再発防止策の策定を求める。
2025年1月17日:フジテレビ、ウェブや週刊誌禁止の中継・動画禁止で定例会見を行う(以下「最初の記者会見」)
2025年1月18日:大手企業がフジテレビのCM差し止め
※数日間で50社以上に波及
※中居正広のレギュラー番組の打ち切り・降板も相次いで発表
2025年1月23日:中居正広、引退を公式サイトで発表/フジテレビの社員説明会開催
※冒頭で社員説明会は撮影・録音禁止と告知されたが、一部の社員が録音し、複数のメディアが内容を報道
参考:【独自】「この場で社長会長が辞任してくれないと月9ドラマが止まる!」悲痛のフジテレビ社員説明会の一部始終《緊迫の1・23ドキュメント》(現代ビジネス編集部)
参考:【独自】フジテレビ社員集会の一問一答「なぜいま辞任しないんですか?CMがゼロになります」《涙のフジ社員説明会1・23》(現代ビジネス編集部)
2025年1月27日:臨時取締役会/2度目の記者会見
大きかったのは最初の記者会見です。
正式な記者会見ではなく、定例会見で説明するとか、意味不明な設定になっていましたが、報道機関であるにもかかわらず撮影は不可、週刊誌やネットメディアは排除された記者会見でした。さらに内容的にも不十分だったために、フジテレビへの不信感が増す結果となりました。
翌日、大手広告主数社がCMを停止し、どんどん広がってあっという間にフジテレビのCM枠は、ACジャパンのCMと番宣だらけになってしまいました。
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