気候難民が目指す先は?(Adobe Stock)

気候変動による2030年最悪のシナリオを描くこの連載。第20回では異常気象で増加が見込まれる気候難民や自国第一主義に傾く主要国への影響にフォーカスする。

■気候難民の受け入れカウントダウン

気候変動による異常気象(台風、竜巻、洪水、熱波、水不足、海面上昇など)は、住んでいた土地を追われる多くの「気候難民」を生み出している。国内での移住を余儀なくされるならまだしも、大洋に囲まれた小さな島国の中には、母国そのものが消滅しつつあるところもある。

気候難民が2億人に達すると推定される2050年を待たずとも、2030年にはグローバルな主要課題となっているだろう。もともと世界的に見ても難民受け入れのハードルが高い日本(難民認定率0.3%)の場合、従来の政策を維持したままでは次のような問題に直面するに違いない。

例えば、諸外国は日本が気候難民に対する人道支援に、より積極的に関与することを求めるだろう。金銭的な支援のことではなく、年間何人を受け入れるかといった割り当て数のことだ。もしこうした要求に対して否定的な姿勢をとれば、国際社会は日本が温室効果ガス排出国としての人道的責任を放棄しているとみなし、深い懸念とあつれきを生むだろう。

このような影響は外交問題にとどまらず、日本の企業にも及ぶ可能性がある。国際社会からの監視や懐疑的な見方が強まれば、世界市場における日本の競争力はさらに低下することが考えられる。日本の企業は海外の消費者やパートナーから社会的責任へのコミットメントを疑問視され、社会的・環境的イニシアチブの見直しを迫られる。これを機に海外の多くの国で日本製品の不買運動が起こらないとも限らない。

気候難民の受け入れにネガティブな姿勢を示すことは、日本の国際社会における地位を危うくしかねない。

■食料・水・エネルギー供給の不安定化

不足する各種資源(Adobe Stock)

気候危機が現在よりも悪化する2030年には、世界の食料・水・エネルギー問題がより深刻になっている可能性がある。これらの問題がアメリカや中国、インド、日本などの主要国にどのような影響を及ぼすかについて推測してみよう。

まず米国だが、気候災害の多発で作柄の乱れや収量減少が懸念される。これが飼料や食糧価格の上昇を引き起こし、国内外の市場に影響を及ぼす。一部地域では渇水が慢性化し、水ストレス(水不足で日常生活に不便さを感じること)が生じ、産業の水需要にも支障を来すだろう。米国のエネルギー構成は多様だが石油・ガス不足のリスクは常にある。

2030年、中国は度重なる大洪水や土壌劣化、干ばつ、水不足などの課題に直面し、食糧の安全保障が脅かされつつある。水不足は産業や農業に影響を与える。中国のエネルギー源は主に石炭と水力だが、各地域で渇水が続いて水力発電が当てにできないとなれば、自国の石炭や原発、ロシアなどからの石油輸入をさらに増やすだろう。

経済成長著しいインドは食料資源を供給するのはほとんどが小規模農家であり、洪水や干ばつなどの気候災害の影響で生産・供給量が慢性的に不安定になっている可能性がある。急速なエネルギー需要は自国の石炭やバイオでは間に合わず、ガスの輸入をさらに増やすかもしれない。

日本は食糧及びエネルギーの輸入依存度が著しく高く、世界的な食糧不足やエネルギー不足の影響を受けやすい。水位が低下するダムも増えるため、洋上風力発電や再エネの稼働率が高まるが、同時に火力発電や原発の稼働率も高まっていると考えられる。