2024/10/02
防災・危機管理ニュース
【エルサレム時事】イランが1日にイスラエルへ約180発の弾道ミサイルを発射したことで、懸念されていた戦火拡大が現実味を増している。イランを後ろ盾とするイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ師がイスラエル軍に殺害され、レバノンで地上侵攻も始まったことで、イランは対イスラエル直接攻撃を自制する従来方針を転換。イスラエルは報復を明言しており、攻撃の応酬が中東地域の緊張と不安定化を一段と助長する恐れがある。
◇全面戦争望まず
「90%が標的に命中した」。イラン精鋭軍事組織「革命防衛隊」は声明で、ミサイル攻撃の「戦果」を主張。「シオニスト(イスラエル)が軍事的に反撃すれば、さらに破滅的な打撃を受けることになる」と警告した。
イラン最高指導者ハメネイ師は先月28日、ナスララ師殺害後の声明で「地域の運命を決めるのは抵抗勢力だ」と主張した。ただ、イラン自ら報復攻撃に踏み切るかは明言せず、その真意が臆測を呼んでいた。
ロイター通信によると、ハメネイ師はナスララ師死亡後に安全な場所へ移動し、ミサイル発射後もとどまっている。レバノンで起きた通信機器の一斉爆発を受け、革命防衛隊も通信機器使用を禁じたとも報じられ、イスラエルによる暗殺や破壊工作を恐れているもようだ。
イランは、軍事力で上回るイスラエルや米国との全面戦争は避けたいのが本音だ。しかし、イランで起きたイスラム組織ハマス最高指導者の暗殺から2カ月超も報復を見送る間に、「イランに最も従順」(専門家)とされるヒズボラがイスラエルの攻勢で窮地に陥ったことで、強硬姿勢に転じた。
イラン情勢に詳しいシンクタンク「国際危機グループ」のアリ・バエズ氏は「イランの地域での抑止力は地に落ち、ヒズボラが打倒される前に対抗する必要があった」と指摘する。イスラエルに厳しく対処しなければ、親イラン組織への求心力や威信が低下すると、イラン指導部が危惧した可能性もある。
◇「誰であれ攻撃」
今後はイスラエルの出方が焦点だ。ネタニヤフ首相は1日、「われわれを攻撃すれば、われわれは誰であれ攻撃する。イランでも同じだ」とけん制。反撃対象や規模次第では、事実上の核保有国イスラエルと、核開発を進めるイランの本格衝突を招きかねない。
4月のイスラエルによる在シリア・イラン大使館空爆では、イランが報復として初めてイスラエルを直接攻撃。イスラエルがイラン領内へ反撃する事態に発展したが、双方が全面衝突を回避するため抑制的対応にとどめたことで、危機は沈静化した。
だが今回、イスラエルがイラン核施設など重要施設を狙う攻撃に強度を上げれば、歯止めが利かない報復の連鎖も懸念される。米紙ニューヨーク・タイムズは専門家の話として、ヒズボラの弱体化で脅威が減ったことで「イスラエルが強く対応する自由度が、4月より増している」と伝えている。
〔写真説明〕イラン最高指導者ハメネイ師=8月27日、テヘラン(EPA時事)
(ニュース提供元:時事通信社)

防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方