2014/05/29
防災・危機管理ニュース
~2013年米国務省テロ年次報告書を参考に~
和田 大樹 (国際政治学者)
日本安全保障・危機管理学会主任研究員
オオコシセキュリティコンサルタンツ(OSC) アドバイザー
4月30日、米国の国務省は「2013年テロ年次報告書」を公表した。同報告書によると、2013年に発生したテロ事件は計9707件(前年より43%増)で、1万7800人以上が死亡(前年、約1万1000人)、3万2500人以上(前年、約2万1600人)が負傷したとされる。 またテロ事件が多く発生している国は、イラク、アフガニスタン、パキスタン、インド、フィリピン、タイ、イエメン、シリア、ソマリア、ナイジェリアなどとされる。米国務省は毎年このようなテロ年次報告書を発行しているが、2012年以降米国メリーランド大学のテロ研究機関:STARTが発表するテロ分析や情報をリソースにしている。以下は同報告書に掲載されている図表をもとに、2013年に発生したテロ事件について分析したものである。
図1:月ごとにおけるテロ事件数、犠牲者数、負傷者数、人質(誘拐)者数
月 |
テロ事件数 |
犠牲者数 |
負傷者数 |
人質(誘拐)者数 |
January |
669 |
1022 |
2043 |
986 |
February |
567 |
991 |
1840 |
118 |
March |
639 |
1027 |
1881 |
145 |
April |
804 |
1123 |
2533 |
148 |
May |
924 |
1557 |
3448 |
172 |
June |
685 |
1542 |
2326 |
313 |
July |
898 |
1862 |
3151 |
176 |
August |
842 |
1918 |
3683 |
126 |
September |
761 |
2034 |
3296 |
199 |
October |
934 |
1639 |
2702 |
199 |
November |
1007 |
1448 |
2649 |
144 |
December |
977 |
1728 |
3025 |
264 |
Total |
9707 |
17891 |
32577 |
2990 |
・2013年の1カ月平均のテロ事件数は約809件で、犠牲者数が約1490人、負傷者数が約2715人となっている。また1回のテロ事件における犠牲者数は1.84人で、負傷者数が3.36人である。
・人質(誘拐)者数の欄で、1月だけが986人と飛び抜けて多い数字となっているが、これは日本人10名が犠牲となったアルジェリア南東部、イナメナスにおける人質事件が背景にある。この事件では日本人の他にも米国人、英国人、コロンビア人、フィリピン人など約40人が犠牲となり、全体で約800人が人質になったとされる。
・テロ事件数では、1月~2月あたりが他の月と比較して少なくなっているが、これはテロ事件が多いパキスタンとアフガニスタンとの国境、トライバルエリア(FATA)の冬の厳しさが影響しているのかも知れない。
図2:テロ事件数の多いトップ10か国
国家 |
事件数 |
犠牲者数 |
負傷者数 |
犠牲者数/1回の攻撃 |
負傷者数/1回の攻撃 |
Iraq |
2495 |
6378 |
14956 |
2.56 |
5.99 |
Pakistan |
1920 |
2315 |
4989 |
1.21 |
2.60 |
Afghanistan |
1144 |
3111 |
3717 |
2.72 |
3.25 |
India |
622 |
405 |
717 |
0.65 |
1.15 |
Philippines |
450 |
279 |
413 |
0.62 |
0.92 |
Thailand |
332 |
131 |
398 |
0.39 |
1.20 |
Nigeria |
300 |
1817 |
457 |
6.06 |
1.52 |
Yemen |
295 |
291 |
583 |
0.99 |
1.98 |
Syria |
212 |
1074 |
1773 |
5.07 |
8.36 |
Somalia |
197 |
408 |
485 |
2.07 |
2.46 |
・2013年にトップ10入りした国家は、2012年のそれと変わっていない。
・2012年と比較して、この10カ国中、9カ国でテロ事件数は増加した。2012年はパキスタンが1位であったが、2013年はイラクが1位となり、フィリピンやシリアもランクが上がった。特にイラクとシリアでテロ事件が増加した背景には、シリア内戦が激化し、その中で台頭したアルヌスラやイラクからシリアへ活動範囲を活発化させたISIL(イラクとレバントのイスラム国)の影響がある。ナイジェリアではテロ事件数が45%減少したが、全体としては31%増加した。
・2013年には93カ国でテロ事件が発生したが、全テロ事件数の57%、全犠牲者数の66%、全負傷者数の73%はイラクとパキスタン、アフガニスタンの3カ国で占められる。この傾向は2012年と変わらない。
・1回のテロ事件における平均犠牲者数は、シリアとナイジェリアで非常に高くなっており、暴力性の高いテロ事件が発生した。
・2013年も同様に、トップ10カ国の顔ぶれを観る限り、アルカイダ系のイスラム過激派の基盤があり、また活動する国家で多くのテロ事件が発生している。
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