イスラエル軍とイスラム組織ハマスの衝突が続くパレスチナ自治区ガザで、昨年12月から赤十字国際委員会(ICRC)の一員として活動する医師、安藤恒平さん(46)=福岡市出身=が、東京都内で時事通信の取材に応じた。昼夜問わず爆発音が響き、手術に必要な抗生剤も不足する環境。「(これまで働いた)他の紛争地で経験したことがない」厳しい状況を振り返った。
 安藤さんはガザ南部ハンユニスのヨーロッパ・ガザ病院で治療に当たり、今月9、10両日にインタビューに応じた。
 安藤さんによると、昨年末以降は治療中に「鼓膜が痛くなるような衝撃と音」が響き、直後に大勢の患者が搬送されてくることが増えた。戦場がガザの北部から南部へ移るに従い、イスラエル軍の攻撃対象が病院に近づいてきたためとみられる。
 症状には「大きな爆発による損傷や、崩れた建物から転落したけが」が多かった。体の一部を切断しないと感染症で死に至る恐れがある患者の家族らに対しては、「いきなり『切断』というとショックが大きい」との中東出身スタッフの忠告を受け、説得に時間をかけた。患者の精神的負担も大きく、臨床心理士とともにケアに当たった。
 戦闘が激しかった北部の病院から転院してきた患者も多数いた。1月以降は、ニーズが高い抗生剤が不足。3月からは消毒液も底を突きかけている。
 病院の非常電源は機能しており、停電はほとんどないが、「周囲の建物にほとんど明かりはない」状況だったという。イスラエル軍が最南部ラファの検問所を制圧したことで、医薬品や燃料の供給がさらに滞る事態を懸念する。
 安藤さんは「患者が増えても無力感に陥ることなく、今ある技術でどうやったら対応できるか考える」と語る。2011年から国際医療団体「国境なき医師団」やICRCの医師としてナイジェリア、南スーダンなどを巡った経験もあり、紛争地入りに恐怖は感じないといい、「『ICRCがここにいるから安全だ』と示すのも役割の一つだ」と力を込めた。 
〔写真説明〕赤十字国際委員会(ICRC)が支援する病院に運ばれてきた子供の患者=3月、パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニス(ICRC提供)
〔写真説明〕取材に応じる赤十字国際委員会(ICRC)の安藤恒平医師=10日、東京都港区

(ニュース提供元:時事通信社)