あまりにも大きな犠牲。私たちは何を教訓とすべきか

写真を拡大津波で壊滅的な被害を受けた宮城県三陸町の市街地。写真提供:共同通信社

想定を超える「巨大地震」。とはいえ、10m を超える津波は予期されていた。
震度5 強でパニックに陥った東京。電話の輻輳や交通機関の麻痺は覚悟できていたはずだった。
それが…。

弊誌インタビューの中で、最大10mを超える津波が押し寄せる可能性があることや、シナリオ次第で犠牲者の数はいくらでも大きくなることを指摘していた。今回の東日本大震災は、それらがまさに現実のものとなってしまった。

被災地に対して私たちができることは何か。1人1 人、1社1社が考え、さらに業界ごと、地域ごとに力を合わせ、日本全体として大きな支援の力を生み出していくことを願いたい。

■企業のBCP はこれからが本番
一方、今回の地震では東京23 区でも震度5強を記録し、高層ビルの長期振動や、交通機関の麻痺、電話の輻輳などにより、パニック状態に陥った。そして、東京電力の計画停電による影響や、物流の遮断・遅延による影響は、今後もしばらくの間、続くことが予想される。

津波や地震で被害を受けた地域の1日も早い復興を祈りつつも、多くの日本企業には、今まさに事業継続計画(Business Continuity Plan)の発動が求められているのだと思う。

■ 長期間にわたり交通手段が制約される。
■会社に行くことができない。
■ 物流の途絶で、取引先から調達部品が入手できない。
■ 電力の供給が長期間にわたり制限される。

 これらの状況に戸惑っている企業の担当者は多いことだろう。しかし、これらは、単に地震だけによって、もたらされる影響ではない。強毒性の新型インフルエンザが発生したとしても、感染防止策として長期間、交通機関の利用を控えなくてはならないケースはあるだろうし、場合によっては自宅勤務を余儀なくされることもある。出社人数も、感染者が
増えれば大幅に減る。突然の実施で混乱を招いている計画停電も、政府「事業者・職場における新型インフ
ルエンザ対策ガイドライン」には、新型インフルエンザでも「保守・運用の従業員不足により地域的・一時的に停電などが生じるおそれがある」と記載されている。ガソリンスタンドの燃料不足も同じだ。
 

写真を拡大東京電力の計画停電により鉄道各社が運行本数を減らし、大混乱する新宿駅。

すでに、新型インフルエンザ対策のBCP を検討・策定している企業なら、ある程度の対策は考えられていることだろう。あらゆる事業継続の可能性を組み合わせ、各企業1 社1社が、これからも起きるだろう様々な困難を乗り越えていくことこ
そ、日本経済全体のレジリエンス(しなやかな復元力)につながるのだと思う。

日本大震災 緊急アンケート

本誌では、3月11日午後2時46 分頃発生した東日本大震災について、地震発生当日から数日間における企業・組織の従業員の対応について、緊急アンケートを実施。計413 人からの回答を得た。
(アンケート期間は3 月14 日〜3 月16 日の3日間。弊誌メールマガジン購読者約1 万人に配布したほか、弊誌ウェブサイトに掲示した。回答者413 人の内訳は、大企業の従業員が41%、中堅企業が23%、中小・零細企業が22%、その他14%。地区別には、首都圏を中心に関東が78.9%、中部東海が7.5%、近畿が5.6%などで、被災が大きかった東北は1・9%)

■携帯メール遅延も
アンケートでは、全回答者413 人のうち、地震発生時に社外に出ていたという190 人に対して、「何時間以内に会社と連絡が取れたか」について質問。結果は、1時間以内が44%と最も高く、次いで3 時間以内(15%)、2時間以内(14%)となった。使った通信手段は携帯電話のメールが26%と最も高く、次いで携帯・スマートフォンでの通話(20%)、会社の安否確認システム(16%)の順となった。ただし、回答者を大手企業に絞ると、安否確認システムが27%と最も高く、次いで、携帯メール(26%)、携帯・スマートフォンでの通話(19%)となる。「その他」は、IP 電話、出先・自宅の固定電話、ス
カイプ、ユニファイド・コミュニケーションなど。わずかな意見ではあるが、フェイスブックやツイッターが有効との回答もあった。一方、携帯メールと回答した人の中には「つながりにくい」「数時間経ってからメールが届いた」などの意見があった。

家族との連絡についても、1時間以内が32%と最も高い結果となったが、2時間以内〜5時間以内の数値が「会社との連絡」に比べ高いことから、ある程度、落ち着いた段階で連絡を取ったことが推測される。また、「その他」回答として「時間が経つにつれ電話がつながらなくなった」などの意見もあり、会社に比べて連絡が取りにくかったとも考えられる。

■天井が落ちた
施設の損傷については、東北地区8社の回答を見ると、建物倒壊(1社)をはじめ、停電(6社)、設備の破損(3 社)など大きな影響が出たことが裏付けられたが、アンケート全体では、「特に被害はない」が35%で最多。以下、本棚やロッカーの中身が落下(14%)、社屋の一部破損(7%)、設備の破損(6%)などの被害が出たことが分かった。関東地区の回答者に絞ると、具体的な被害として、天井パネルの落下、壁面の崩落、漏水、商品の落下、消火設備の破損、IT 機器の転倒などが挙げられた。中には「爆発により装置が致命的な損害を受けた」(東京都大企業)という回答もあった。エ
レベーターの停止は、選択項目には入れなかったが、東京、神奈川を中心に多数報告された。

■危険で歩けない
 3月11 日当日の帰宅状況については、1都3県(計324 社)の回答に絞って集計した。その結果、帰宅せずに宿泊が24%と最も多かったが、通常より早く仕事を終え帰宅(21%)、通常の業務時間後に帰宅(20%)も、それぞれ高い結果となった。その他の回答では、居酒屋で朝まで過ごした、避難所で朝まで過ごした、友人宅に泊めてもらった、など。防災対策員として朝まで帰宅困難者を支援した人もいた。

会社に宿泊した人の課題としては、「特に問題がない」を除くと、眠る場所がない(25%)、食料がない(10%)などの回答が多い。「その他」課題では、施設に一般の人が入り込んで来てしまった、毛布が無い、公共交通機関の運行状況が分からない、エレベーターが停止して高層階まで行き来できない、外部と連絡が取れない、など。

帰宅方法についても1都3県についてのみ集計した結果、徒歩で帰宅が52%と半数を超えた。自転車を新規購入との回答もあった。課題としては、混みあって歩けない(30%)、長くて歩けない(14%)、トイレが無い(13%)、道が分からない(12%)、がいずれも多い。「その他」課題では、大渋滞でタクシー費用や時間が分からない、休憩できる場所が少ない、停電により暗くて危険、歩道・車道ともに混んでいて自転車は走りにくい、対面通行になる部分は通行しにくい、寒い、ハイヒールで歩きにくい、足が痛い、渋滞のイライラ運転が多くて危険、ビルからの落下物があり危険、違う方面から来た帰宅困難者同士が交差する箇所では道に歩行者があふれ出て危険など、生々しい声が多数寄せられた。被災地であ
る福島県の回答者からは、津波が来た危険な道路を通らないと帰れなかったとの書き込みがあった。

■計画停電への不安


 今後の業務の課題としては、「特に心配がない」を除くと、交通機関の規制で出社ができないが23%で断トツに高く、取引先の安否が確認できていないため業務に支障が出る可能性がある(10%)、取引先の被災で物品が調達できそうもない(8%)と続く。その他の意見としては、東京電力の計画停電への影響を懸念する声が多く、交通機関や自社のIT機器・設備などへの影響を心配とする回答が多かった。このほか、取引先が自治体のため通常業務ができない、イベントが開催できない、物品搬送のルートの確保が不安、原発の影響(放射能汚染)が心配、東北地方の拠点と電話がつながらない、燃料が確保できない、被災者や救援者へ製品が届けられるか不安、などの回答があった。「業務を継続することの社会的な意義が分からない」などの精神的な課題も寄せられた。

最後に、今回の地震を教訓として、組織として改善したい点を挙げてもらった(下図参照)。

今回のアンケートは地震発生後、数日間における主に従業員の行動に焦点を当てたものだが、次号以降、企業・組織としての対応やBCP(事業継続計画)の発動状況などについても聞いていきたい。