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読者の皆様もご承知のとおり、防災・減災や事業継続などの関係者の間で「レジリエンス」という用語が近年特に多用されるようになってきたことから、「事業継続」と「レジリエンス」との関係をどのようにとらえるべきか、という議論がさまざまな場面で展開されている。日本国内に限らず海外においても、事業継続に関する専門家や実務者の間で、自らの役割範囲をどうとらえるべきなのか(例えば従来の「事業継続」よりも拡大すべきなのか、など)、事業継続に取り組む組織体制を見直すべきなのか、などといった議論が、筆者が把握している範囲でもあちこちで見られる。

このような状況をふまえ、BCMの専門家や実務者による非営利団体BCI(注1)は、2018年から「Continuity and Resilience Report」という調査報告書を継続的に発表しており(注2)、主にBCI会員を対象としたアンケート調査やインタビューなどをとおして、事業継続に関する実務者がどのように「レジリエンス」に対峙しているかを明らかにしようとしている。本稿ではその2023年版を紹介させていただく。

なお本報告書は2023年9月に発表されており、下記URLから無償でダウンロードできる(BCI会員でなくても、ページの下の方にある「Register for Free」という部分をクリックして連絡先などを登録すればダウンロードできるようになる)。
https://www.thebci.org/resource/bci-continuity-and-resilience-report-2023.html
(PDF 104ページ/約 8.9 MB)


本報告書の目次は次のようになっている。趣旨や大まかな構成は2022年版を踏襲しているが、各項目の表現が若干変わったり、新たな項目が追加されたりしている。ちなみにページ数も前回より40ページ増えている。

・ Executive summary(要約)
・ BC vs resilience(事業継続 vs レジリエンス)
・ BC: more strategic or more operational? (事業継続:より戦略的に、またはより実務的に?)
・ Role changes within BC and resilience(事業継続およびレジリエンスにおける役割の変化)
・ Implementation of resilience programmes(レジリエンス・プログラムの実装)
・ Ultimate ownership of resilience(レジリエンスの最終的な所有者)
・ The contemporary BC and resilience manager(現代の事業継続およびレジリエンス・マネジャー)
・ Resilience in the new working environment(新たな就労環境におけるレジリエンス)
・ BC methods and techniques(事業継続の手順や技法)
・ Organizational support for BC and resilience(事業継続やレジリエンスに対する組織のサポート)
・ What’s next? The future of BC and resilience(次は何か?事業継続およびレジリエンスの未来)
・ Annex(付録)


図1は2022年版には無かった設問で、自組織における事業継続マネジメント(BCM)の成果は何かを尋ねた結果である(原文では「outcomes of BC」となっているが、これはBCMの活動による成果と考えるのが自然であろう)。上位項目は次のようになっているが、筆者としては3位および4位に、単に計画策定など一過性の活動で終わっていないものがランクインしていることに注目していただきたいと思う。

1) 混乱(disruption)に直面した際の内部のインパクトの最小化
2) 混乱に対応し、そこから復旧するための計画の作成
3) 対応および復旧戦略の演習とテスト
4) 対応および復旧戦略の改善を継続すること

画像を拡大 図1.  事業継続マネジメントの成果(複数回答) (出典: BCI / BCI Continuity and Resilience Report 2023)


本報告書では、図1の上半分は典型的なBCMの成果であるのに対して、下の方には古典的な事業継続の範疇というよりもむしろ、より広くレジリエンスの対象として考えられるような項目が並んでいることに注目されている。もちろん、どこまでが「事業継続」の範疇だという明確な定義は存在しないし、少なくとも図1のなかで下の方の項目を「BCMの成果」として回答した方々は、これらが事業継続の範疇だと認識しているのである。つまり図1も、さまざまな課題に対してそれらを事業継続の範疇としてとらえるか、レジリエンスとしてとらえるべきかが人によって異なることを示していると言える。