BCP4.0 -ESG時代に求められるBCP・リスクマネジメントとは?
執筆者:KPMGコンサルティング株式会社
アソシエイトパートナー
土谷 豪(つちや ごう)
気候変動による自然災害の多発、米中対立やロシアによるウクライナ侵攻などの地政学リスクの高まり、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックなどにより、BCP(事業継続計画)/BCM(事業継続マネジメント)の重要性は増しています。本連載では、ESG時代に日本企業に求められるBCPとリスクマネジメントについて、BCPの概要から最近の動向、課題などについて、事例を交えながら解説します。
ESGイシューとBCPの関係
自社がサステナビリティに取り組む意義について”腹落ち“し、将来のレジリエンス向上に繋げられている企業はまだ多くないのが現状です。サステナビリティの潮流がBCPに与える影響、それは過去に経験した危機対応の高度化から未来志向のリスクマネジメントへの進化だといえます。すなわち、メガトレンドと呼ばれるような将来の不確実性を織り込み、事業継続に向けた備えを継続的にアップデートすることです。
具体的なメガトレンドを踏まえたESGイシューとBCPの関係は以下の通りです。
①気候変動×BCP
気候変動はすでに重大な経営リスクとなっており、企業にはレジリエンス強化・脱炭素化に向けた事業ポートフォリオおよびサプライチェーンの見直しが求められています。実際に体感できるレベルで気候変動に伴う異常気象(豪雨・洪水・台風・旱魃・山火事等)が発生しており、自社およびサプライチェーンの被災、操業停止および調達先の見直しが求められることが予想されます。自社の工場やグループ会社、関連するサプライヤーや委託先、データセンターなどが存在する地域において、今後どのような気候変動が想定されているかをアセスメントし、拠点配置や中長期の事業戦略に反映していくこと自体が未来志向のBCPであるといえるでしょう。
②人権×BCP
人権問題に対する社会的な問題意識はより一層強くなっています。SNSの浸透によって一般消費者の声が増幅されることで、従来以上に問題が露呈した際のレピュテーションの毀損に繋がるケースも少なくありません。国際労働機関(ILO)の推定によると、2021年時点で、全世界で約5,000万人が、強制労働、人身取引などを強いられているとされています。被害者の86%(2,800万人)は民間経済、すなわち企業活動により搾取されており、そしてこれら該当企業は、強制労働からの搾取により年間1,500億ドルの不法利益をあげているとされています。
BCPの観点では、特にサプライヤーなどのサードパーティーにおける「人権リスク顕在化への備え」が重要です。リスクの未然予防の検討はもちろん、実際にリスクが発生する事態を想定したうえでの検討を行うことが必要です。例えば、外注先・調達先での児童労働が発覚した場合のほか、NGO等の民間組織からの問い合わせなどを受けた場合に、企業としてどう対応するべきなのか、投資家や顧客からの信頼失墜などの影響を如何に最小限にとどめることができるのか、あらかじめシミュレーションし、手順化しておかなければなりません。
具体的な対応としては、サプライヤーに対する質問票や実地監査を通じ、BCPの対応状況に加えて人権リスクへの取り組み状況などを確認し、問題があった場合には改善につなげる活動をサプライヤーと協働し対応することが求められます。
③生物多様性の損失×BCP
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム(IPBES:イプベス)から2019年に公表された「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」によれば、調査されているほぼ全ての動物、植物の約25%の種の絶滅が危惧されているとされています。過去50年の間、人類史上かつてない速度で地球全体の自然が変化していること、このままでは生物多様性の損失を止めることができず、持続可能な社会は実現できないことが指摘されており、生物多様性の損失は大きな社会問題となっています。
生態系の喪失にともなう追加的なコストは甚大であり、気候変動に続くリスクとして規制および開示の強化が本格化しています。企業は、自社の事業を継続していくうえで、「生物多様性」によってどのような影響を受けるかを可視化し、原材料の変更や、新事業・サービスを検討する際に生物多様性に対する観点を考慮することが求められています。
④水危機×BCP
国連の発表によると、2050年には世界で最大約50億人(世界人口の約半数)が深刻な水資源不足に直面するといわれています。世界経済フォーラムが発表する「グローバルリスク報告書」においても毎年リスクの上位に「水危機」が挙げられているように、世界では水危機についての懸念が高まっていますが、日本においては危機意識が低いのが現状です。
しかし、日本においても水危機は存在します。水危機とは水不足だけを指すものではなく、例えば、近年も多く発生している台風や大雨による水害被害など気候変動の影響により豪雨や巨大台風の増加なども水危機に挙げられます。
グローバルサプライチェーンを持つ企業は、世界の水不足により海外からの調達が滞るリスクや、海外工場で生産ができなくなるリスクも考慮しなければなりません。自社の事業に係わる拠点が水危機による影響を受けるか否かをアセスメントし、対策(拠点配置の再検討、調達先変更など)を講じることが重要です。
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方